全思考

 著者:北野武
 発行者:見城徹
 発行所:株式会社 幻冬舎
 2009年4月10日第一刷発行

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 だいたい、今の社会は、人生とは何かと、人間の生きる意味は何かみたいなことを、言い過ぎる。若い人には、それが強迫観念になっている。何かというと、そういうことを言う大人が悪いのだ。自分たちだって、生きることと死ぬことの意味なんか、絶対にわかってないくせに。
 天国や地獄が本当にあるのかも、神様がいるのかいないのかも、誰も証明したことがないわけだ。そういう曖昧な状態なのに、生きる意味を探せなんてことを言われたら、誰だって迷うに決まっている。自分の能力だけで、その迷いから抜け出せる人間なんて、ほんの一握りなのだ。

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 北野武という人のエッセイを初めて読んだ。と、いうかこの人の作品というものに触れるのが初めて。北野武と言えば"人生成功してる人"と言っても過言では無く、そういう人の言葉というものは人を飲む印象が強いです。「成功しているからこそ言える事」なのに、私達の多くは「成功したから言える事」と勘違いする事が結構多い。そういう固定概念(私がひねくれているだけでしょうか…)を全部ぶっぱなして読む事を決意して読んでみた。

 読み始めから読み終わりまで自宅以外の所で読んだのですが、涙をボロボロ流しながら読んでもおかしくない所が沢山あった。全てにおいて共感出来る訳じゃない。同じ事を繰り返し繰り返し言う場面も沢山あって、文章として拙い部分もあった事は事実。けれど、今の大学生(平成生まれらへんでしょうか)辺りに読んで欲しいと思える本なんじゃないかなって思った。

 実際、色んな経験をしたいい大人の言葉を読んだり聞いたりする事なんてそうそうなくって、聞いたとしても聞き流してしまう事って多くて、素直になれない事が多い。けど、本っていうのはちょっと違う。自分のいい時に、いい気持ちで、いい条件で読む事が出来る。それって吸収出来るって事だと思う。
 全てを吸収すべきではない。全てを吸収してしまっては無個性になってしまうからだ。ロボットを作る為に人は自分の意見を書き連ねた本を出すのでは無い。そして、読むのでは無い。

 読んでよかったなぁと思った。何か自分の言葉に出来ない気持ちを読めた気がして少し嬉しい。


全思考 (幻冬舎文庫)

全思考 (幻冬舎文庫)

七瀬ふたたび

 著者:筒井康隆
 発行者:佐藤隆
 発行所:株式会社 新潮社
 1978年12月20日発行

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 ついていらっしゃい、と、七瀬は胸の中でつぶやいた。どこまでもついていらっしゃい。北海道で、あなたは自分の罪を償うことになるのよ。たとえあなたがわたしの追跡をあきらめても、わたしはあなたを許さないわ。ヘニーデ姫の恨みを晴らしてあげるからね。それが殺人者に読まれているかはどうかはわからなかったが、七瀬は今や自分の敵意をまったく隠そうとせず、窓側の雲海にじっと眼を据えたまま唇を噛み続けていた。

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 七瀬シリーズ第二部「七瀬ふたたび」読了。
 第一部の「家族八景」の感想はこちら→家族八景 - 55book

 第一部からは想像もつかないストーリーの連発でまずびっくりする。"日常"の中を"非日常"の象徴である七瀬が過ごしていくストーリーとは打って変わっての冒険劇。七瀬は精神感応能力者(テレパス)の持ち主であり、心の掛け金を外すと対面している人間の心の中が手に取るようにわかる。能力者の存在は彼女だけであったし、それが彼女の孤独を増殖する結果という事も明らかであった。が、能力者が全て味方な訳もあるまい。その事を聡明な彼女は理解をしていた。

 そんな彼女の前に現れる能力者達。勿論、上記したように「全てが味方」な訳でもない。中にはその能力を持ち悪事を働く者だっているし、異物として能力者達は育ってきた。其の中で簡単に人を信用もしていけないだろう。其の中でめぐり合う仲間たち、そして恐怖となる対象。

 とにかく驚きの連続、そして、止まらない眼と手。次へ次へと進むワクワクとした感覚をどうしてこうも筒井康隆作品は産み出してしまうんだろう。

 七瀬シリーズ自体が古い作品なので今でいう差別用語(例えば黒ん坊等ど)が多く含まれる。例えば、石ノ森章太郎作品や手塚治虫作品等、有名で皆が絶賛する作品にも沢山そういう表現は含まれるのだ。(例えばカタワ等)実際こういう表現を改変しない辺りまだ文学は「許されているのかな」と思う節もある。お偉い先生方は「こういう表現が悪を産むのだ!」等というのだろうけれど、そうではないだろう。その時代に作られ、その時代に完成したものは改変してはならないのだ。なので、眉を潜めて読む事でもないのだ。

 本作の終わり方が凄く気になる所。「これどうやって続き…」って思うような終わり方。早く第三部を読まなければ…と思うのです。


七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

狐と踊れ[新版]

 著者:神林長平
 発行者:早川浩
 発行所:株式会社 早川書房

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 **反復(リフ)

 「蒸発した連中の気持がわかるよ」
 とおれはいった。
 そのおれとは別に、"どうしゃべるべきかを必死に思い出している"自分がいた。

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 「ビートルズが好き」
 「返して!」
 「狐と踊れ」
 「ダイアショック」
 「落砂」
 「蔦紅葉」
 「縛霊」
 「寄生」
 「忙殺」

 神林長平作品に魅入られたのがよくわかります。表題作「狐と踊れ」はSFマガジンの第5回SFコンテストで佳作を受賞。そして、神林先生のデビュー作となった作品です。新版は、旧版に収録されていた「敵は海賊」を割愛し「落砂」「蔦紅葉」「縛霊」「寄生」の4作を加えて再編集されたもの。

 「巨匠」と呼ばれるようになってからの神林先生の作品しか読んでいなかったのでデビュー作を含むまだ幼い作品を読むのには少し苦労をしました。『こういう作風だ』と脳裏に焼き付いてはいるのだけれど、その人の作品が成長もせずに留まっている訳でもなく、やはり幼い頃の文体というものは存在するわけで。
 最初の神林作品は「NOVA 2」に収録されている「かくも無数の悲鳴」。短編であるが、ガチのSFというものを瞳孔に突き付けられた感覚に陥り魅了され「我語りて世界あり」を購入、そして読了。こちらもガチSF。ぬるさも甘さも感じ無い位のSFで難しい所もあったが更にこれで神林先生が好きになった。
 そして今回。かなりやんわりとしたもの。今までガムを噛んでいた筈なのにこんにゃくゼリーのようなそんな感じを味わう事になった。其れが悪い訳では無いけれど、イメージの中の神林作品とえらく違うので多分読了までに時間がかかってしまったのは私の勝手な考えがぐるぐるとしたからに違いない。

 本とは人生である。その何百頁の中に記された一つの人生である。其れを作者の癖や肩書きやイメージで崩してはいけない。其れを久しぶりに感じる事が出来たからいい機会だったのかもしれない。(他の理由を述べるならば、プライベートで色々と忙しかったりしていた訳で本を読むモチベーションでも無かったんだと思う。そういう日が続く時もある。)

 本の内容に触れよう。
 短篇集で量も多い。ので、一つ一つが結構短い。「ビートルズが好き」や「返して!」は小手調べなのだろう。スラスラと読み進めて行き「返して!」で仰天した。私の持っていたイメージと本の内容が合致したからである。其れはまた読んで理解して欲しいのだけれど。SFを読みすぎると(私だけだろうか…)色々と有りはしない設定を考えてしまうもので、未来の法律だとか、機械の発展だとかを妄想してしまう事がある。其れが「返して!」では一致したから驚いた。その分私は物凄く楽しめたので更にのめり込む事が出来る。
 SFコンテストで佳作を受賞した「狐と踊れ」は、文体としてはねっとりとしていると言っていいのだろうか。近年の神林作品しか知らない私なんかは、そう感じた。キレが無いと言えばいいのか、何となくさざ波に近いそういう感じ。ストーリーとしては完全にSFでガチガチに文体も固めれば容赦なくつんざく事が出来たのだろうけれど、敢えて其れをしなかったのか、そういうスタンスだったのかは定かではない。でも、その緩さで構築されたから主人公の事も妻の事もゆるりゆるりと読み進められたのではないだろうか。ねっとりとした緩さは作品の日常の速度に近い気がする。
 「ダイアショック」は真面目に生死の境目を行き来するんだけれど、笑えるようなそうでないような。アメリカンジョーク的な味わいになってるんじゃないかと思う。結構好き。
 「落砂」は怖い。そして自分がどの立ち位置で読めばいいのかわからなくなってくる。もし、「私は主人公目線で話を読み進めちゃう人なんですよ〜」っていう人が居たら是非読んで混乱していただきたい。12.3頁で目を取り敢えず見張れるだろう。
 「蔦紅葉」は優しさに包まれているのだけれど、その優しさが恐怖であったり混沌であったり空虚であったりそういう掴めない物になっていく感が自分の中では恐ろしさを感じる作品。最後らへんの婆やがスパイスになる。
 「縛霊」は騙された。『神林長平はミステリーも書くのか!』と思っていたのもつかの間。一気にグイッと変わる。例えて言うならば「NOVA 2」の「聖痕/宮部みゆき著」に近い感じ。『トンデモ』なんだけどあっけらかんと『トンデモ』とは言えないようなそんな。
 「寄生」は内に秘めたる恐怖。これもミステリーに近い感じだが『トンデモ』ではない。ただ、行方知れずの自分の浮遊する気持ちを掴めない少年が居て、其のふわふわした中での行動が取り敢えず怖い。救いたい、陥れてもいい、でも結果的に救いが無いってこういう事を言うんじゃないのかな。
 「忙殺」は一番好きな作品になった。これも「縛霊」と同じく『トンデモ』に近い。ミステリーのような形式で始まり、伏線がふわふわとする。その伏線が今思えばどうもSFらしいんだけれど、行動や文体で黙されていく。最後の最後でキーパーソンと出会い、其の後の主人公の言葉を聞いた時にきっと「はっ」とするだろう。是非「忙殺」だけは時間をおかずにイッキ読みしていただきたい。できれば41時間以内に、本を閉じずに読みきってしまって欲しい。そうすれば、きっともっと楽しめる。

 全体的に読みやすく甘い感じでしたが、そう思う場合は解説をしっかりと読んで頂ければ幸いかと。SF音楽研究をなさっている飯田一史さんが解説を書かれています。本作は解説込みで読まないと、温めずに食べる冷凍食品と言っても過言では無い気がするので是非。是非。


 

狐と踊れ (ハヤカワ文庫JA)

狐と踊れ (ハヤカワ文庫JA)

非道徳教養講座

 著者:平山夢明
 絵:児嶋都
 発行者:駒井稔
 発行所:株式会社 光文社

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 全国八千万の賢女子の皆様、御機嫌如何で御座いましょうか?脳味噌をドブ川に捨てて流してきたような人間ばかりが総裁となり、なにやらまた新興宗教が肝煎りの政党まで誕生するという、まだ二〇〇〇年も十年とチョットなのに既に世紀末的様相を呈してきている昨今、周囲の経済不況に煽られず、自給自足独立独歩の女道を邁進されておられますでしょうか?金のないのは首のないのと同じじゃ!と昔、父が祖母に罵られていた姿を昨日のことのように思い出せる私が放つ、そんなサバイバル教養講座、今月も開講で御座います。

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 「第1回 賢い男の捨て方」
 「第2回 賢い親の裏切り方」
 「第3回 賢い友の裏切り方」
 「第4回 賢い嘘のつき方」
 「第5回 賢い恩の売り方」
 「第6回 賢いわがままの通し方」
 「第7回 賢い自分の壊れ方」
 「第8回 賢い失望のさせ方」
 「第9回 賢い盆への返し方」
 「第10回 賢い暮らしのタカり方」
 「第11回 賢い会社の使い方」
 「第12回 賢いスッピンの晒し方」
 「第13回 賢い占いの信じ方」
 「第14回 賢い子どもの育て方」
 「第15回 賢い結婚の咲かせ方」

 平山夢明先生の"素敵な淑女になる為"の講座集です。

 これは本当に本当に本当に面白かった!…とは言いましても、何処まで進めていいものやらわからない感じの面白さです。
 本気で「私は世の中に出て『貴女、とても常識があるのね。素敵だわ。』と、言われたいの!」と、いう方にはきっとおすすめしません。
 後、色々と揚げ足を取られたりする事や、心にズキズキ来るような事を言われる事が苦手な方にもおすすめしません。

 自分の欠点を言われても気づかない方が、人の欠点でゲラゲラ笑え、且つ、常識がある方が読まれると、とても面白みが増すんじゃないんでじょうか?つまり…どの回を読んでもゲラゲラと笑ってしまった私はつまりはそういう人間だ…という事ですね。納得。

 でも、ただ単に「面白み」を追求する為に読むのが一番正しいんでしょうけれどね。

 女性の視点から読めた事が凄く嬉しいとも思いました。男性でも面白さは感じるでしょうが(著者自身も男性だし)、女性であればある程に「あー!わかるー!」という所が多すぎる。まさに"非道徳!"

 …なんですが、恐ろしいのは、やたらと納得が出来てしまう事なんです。人としての性格とか感情とかそういうのを全部とっぱらった意見は結構グサグサと来るものがあり、妙な納得で締められてしまう事も…。平山夢明恐るべし。

 文調としては「独白するユニバーサル横メルカトル」と同じような文調で進んでいきます。「です」「ます」「御座います」。この文調だからこそ出る面白さでもないでしょうか?

 挿絵は児嶋都さんが描かれており、この絵も凄く面白い。実際原稿を読まないでタイトルだけで想像して書いただとか。そのフリーダムさがマッチングしてて最高でした。いやーこれはいい。これは非常に良いものを読んだ感が大きいです。平山夢明好きだから余計にですかね。


 ※素直で優しく、人の気持ちに超敏感で「オムライス食べれません〜><」って人には読んで欲しくないですが、其れを読んで自分の今居るポジションを再確認しては欲しいですね。


非道徳教養講座

非道徳教養講座

ワンルーム

  ドンッという強い音で目が覚めた。ごぽっという鈍い音が耳の隣で泡となって消える。体中に響く振動でこのまま睡眠を続行する事は不可能に近い。女の泣き叫ぶ声が身体の中心を通り抜けて僕を裂こうとするし、外からも衝撃が絶えない状態が続く。逃げようとしても、僕と女とが繋がっているこのロープを、僕は離せずにいる。今、その状態にある。
 逃げ出せれば何の苦労も無いだろう。耳を塞いで身体を丸め、あわよくば走り、誰も居ない所でやり過ごす。優しい人が「大丈夫かい?」と、手を伸ばしてくれる事を待つだけの簡単な作業をすればいい。…それが出来ないからこの苦痛に耐えられずにいる。「誰が好き好んでここに身体を埋めとかなければならないんだ」とか、「もっときっと幸せな時代があっただろう」だとか、まだ自身の力で酸素というものすら口にした事が無い僕が考えるのもおかしな話だろうか?


1


 世界は三つあると、僕が作り出される時に教わったよ。誰かはわからなかったけれど小さな光のようだった。今、この水中での生活、そして水中から追い出された後の生活...出産だとか言っていたかな。そして、追い出された世界から更に追い出された生活の三つだと。追い出された生活をしている人は暢気なもので、水中にいる時の生活の事はすっかり忘れてしまうんだとさ。でも、それは仕方がないって言っていたよ。人間というものは愚かな生き物なんだって。犬や猫は覚えているらしいんだけれど、人間だけ忘れているって。元々愚かな生き物として追い出されるのも寂しいものだよね。なら、僕は犬や猫がよかったや、なーんて思っているけれど後の祭り。僕の遺伝子は約26000個という数で形成され始め、どう足掻いても裸四足歩行で生きていくのは難しいようだ。まぁ、愚かは愚かなりにやっていこうじゃないかって思ったわけ。でも、追い出されて忘れるまでやっぱり十月十日ここの生活を僕は楽しむわけだ。じゃあ愚かで居るのは損なのさ。もしかしたらだ、僕がここを追い出されてしまった時、奇跡的にここの生活を覚えているとしよう。それって凄くラッキーだし、愚かに生きなくてもいいという光の道筋になるわけ。その可能性を捨ててはいけないわけさ。わかる?わかんないんだろうなぁ。だって思っているでしょ?「胎児がこんな事を考えれる筈がない」って。その考え方が愚かなのさ。僕の今の状態を見てご覧。…裸で蹲っているだって?だから駄目なんだ。もっと外を見てご覧よ。僕はこの女の中に家を構えているんだ。栄養も酸素も不足しない。室温だって快適さ。そして何より僕はこの女と繋がっているんだ。これは僕を生かすだけのものじゃない。直接脳に繋がっていると言っても過言ではないかもね。女の知識は今の僕の知識とイコールで繋がるわけさ。こういう事を考えれるのは多少なりともこの女が賢さを身につけているからなんだろうね。そこには感謝しているよ。だって馬鹿な女も世間にはいるんだろ?テレビでよく見るよ。あ、当然目も繋がっているからね。全てが僕の世界さ。僕がこの女だと言っても過言では無い程にね。
 まぁ、馬鹿な女を目にするって話。ほんと、世の中には沢山居るね。知識も教養も無い人間が。あんな気持ち悪いメイクをして流行語を喋る事に何の意味があるんだい?コミュニケーションだろうけれど、あれをコミュニケーション能力だと言い張る気もしれないよ。同じじゃないか。同じものを持てば仲間意識が芽生えるだろうし独りになる事も無く楽しい生活を過ごす事が出来るんだろうね。…それが何年続くと思ってるのさ。そういう女を見る度に鼻で笑ってしまうよ。こう…馬鹿さが顔に出てるよね。まぁ、他人と触れ合った事が無い分想像とこの女の知識だけで僕は話をさせてもらっているだけさ。文句を言うならこの女に言ってくれよ。
 取り敢えず…僕は"まだ"この女でよかったとは思ってる。知識や教養の面でね。人を馬鹿にする事が多いけれど、それ以上に得るものがある。健康面でも申し分無い。酒は飲まないし煙草も喫まない。ドラッグも勿論しないし、ヒステリックでも無い。治安のいい物件だよ。ただ、解せないのは男だね。男が解せないよ。大きな声を出すし、僕の家の壁を破壊しようとするんだ。まだ僕作り出されてから三ヶ月なんだ。もうちょっと家の壁が固まるまで時間がかかるんだよ。安定期ってやつ?それ。でも、多分そうだなぁ。僕はもしかしたら二つの世界しか堪能出来ない気がするんだ。なんでかって?そんなの…この女と繋がっているからさ。知識も教養もあるけれど、この女も馬鹿な女だよ。言ったろ?「賢さを身につけていることには感謝している」って。ああ、健康面とかもそうだけどさ。大事なのはあれだよ、常識とか性格とかもあるもんさ。取り敢えず、今この騒音を鳴らしまくってるのは僕の父親である人間だろう。僕にとってはどうでもいいんだけどね。あんなカスみたいなオタマジャクシの一つがたまたまヒットして僕になっただけだろう?確率の問題さ。確率だけで人を愛せると思ってたら人として問題があると僕は思うけどね。僕の家を持つこの女の事でさえ僕は愛してないんだ。それに、僕の快適な家まで壊そうとしている。
 まぁ、同情するなら女の方なんだけど、女にも同情する余地は無いね。だって、僕は生まれてはいけない子どもなわけさ。別に額に数字が三つ並んでいるわけじゃないけれど、似たようなもの。どこかの誰かの世界を破滅させる力は持っているって事さ。法律上の問題でも難しいらしいしね。僕が産まれる事によって金銭問題も半端ないわけ。…まぁそれは一般的な家庭でも同じ事例が出るんだけれどさ。

 最近の事を話しようじゃないか。僕の計算によると、今日しか無い、と思うんだ。何故なら若干息が苦しいからさ。こんなに喋り続けているからだって?それもあるかもしれないなぁ。まぁでもきっと、僕はここから追い出された後は「口から産まれた子ね」なんて言われる自信があるくらいお喋りだからいいんだ。問題なんて無い、このまま続けようじゃないか。


2


 光に導かれて目が覚めたのは3ヶ月前の昼。「あっ…」という女の小さないつもとは違うトーンの声を耳にしたのが始まりだ。そこから僕は生き始めた。きっと妊娠検査薬に反応があったか何かなんだろうな。小さな声は僕のスイッチだったんだ。そこから僕の世界は始まった。

 いきなりこんなに色々悟っている訳でも無かったし、結構戸惑ったよ。だって僕にはまだ頭も身体も手も足も指も何もかもが無かったんだ。ただの小さな小さな塊さ。言わば感覚だけがこの女の腹に住み着いたんだ。別の感覚。女の一部であるから女である事は間違いないのだけれど、女と男が混ざった混合物は純粋な女とは至極かけ離れた存在なわけさ。まぁ全くの他人よりは近しいものがあるかもしれない。けど、そんな事は関係ないね。僕は僕として生を受けた以上この女とは別の"個"としての存在になる。そこをはっきりしておかなきゃあ駄目だ。

 でも最初は仕方なかった。女が口にするものを僕は吸収していかなければならないし、まだ真っ白な頁な僕の感覚ノートをこいつは自分の感覚と感性と知識と教養で埋め尽くしていく。狂いそうだったね。思うんだけど、それで自分で命を断つ奴も中にはいるんじゃないかなぁ?其れか感覚がパンクしちゃってね。命なんてそんな軽いものじゃないんだろ?大事に尊ぶべき存在なんだって。これもテレビから教わったわけだけど。サバイバルなんだよ。出来上がった時からサバイバル。生きる資格は貰うだけじゃ駄目なんだ。どれだけ耐えて持ち続けられるのかが問題だよ。途中で死んじゃう奴はサバイバルに打ち勝てないわけ。可哀想だけど、才能がないのさ、きっと。

 才能が無いなんていうと「産まれたくても云々」みたいな人がいるけど、僕はそういう話題ノーサンキュー。今議論した所でどうしようもないし、第一今日で僕は僕としてここを追い出された世界をすっ飛ばして更に追い出された世界に行くかもしれないんだ。そこらへん同情してくれてもいいんじゃないかな。

 まぁ、辛かったのは最初の一週間だけ。慣れっていうものは恐ろしいもので、僕はこの女じゃないけれど、どんどんこの女の感覚に染められていくんだ。そしてそれがだんだんと普通になる。でも、僕は僕であってこの女ではない事実がある以上、この女の考え全部に乗っ取られるわけは無く、自己というものが形成されていったんだ。早いでしょう。そう思うよね。だってここの第二の人生を十月十日に凝縮した世界だよ?其れくらいのスピードじゃないと対等じゃないと思うな。それか、僕が人一倍飲み込みが早くて頭がいいのかもしれないね。それに比べてやっぱり追い出された世界の人間は愚かだね。…いや、なんでもないよ。
 だんだんと形成されていく自己と、この女の全てが僕の中に入ってくる。色々と聞いたよ。繋がっていなくともね。だってこの女は僕に話しかけてくるんだ。「元気?」とか「お母さんだよ」とか。反応を返せない状態で質問を投げかけたり話かけたりするっていうのは何とも滑稽な光景だよ、結構ね。
 男との関係も沢山教えてくれるんだ。聞いてもいないのに。一緒にはなれないだとか、逃げてきたとか、本当は堕ろせって言われてる事とかを事細かにね。そういうのって子どもに言うべきじゃないと思うんだ。だけど、追い出された世界の人間はやっぱり何もかも忘れているようで、僕が今、きちんと身体を形成していない状態で"個"としての感情や精神を持つ事を知らないでいる。だから全て話してもいいわけだ。許しを乞うているのかな。僕は懺悔室じゃない。そして答えも返せない。これは結構、卑怯な事だ。
 それに何でも受け止めているように見えるだろう?さっきも言ったけど僕は"個"としての感情や精神があるんだ。それを忘れてもらっちゃ困るな。人知れず涙を流す事もあるし、驚愕する事もある。まぁ自分の今の状況には絶望を覚えているけれど、諦めという単語も最近覚えたから後は実行するだけだ。

 僕らはコンピューターのような存在に近いかもね。媒体からOSをインストールされてソフトウェアもインストールする。そして喜怒哀楽のアプリケーションを作動したりして生きていくんだ。それが追い出された世界よりも言葉通り"機械的なだけ"さ。だから僕は今、自分の置かれてる現状に恐怖心でお漏らしをするだなんて恰好の悪い事なんてしないよ。第一膀胱もまだ正常に機能していない状況で尿があったとしても垂れ流しさ。そこらへんはまだ人間できてないの。言葉通りに。…あ、ここ笑う所ですよ。

 「産まれてきてはいけない」僕をどうにかこうにか守ろうとこの女は頑張ってるけど、やっぱり難しいね。派手に動けないしさ、下手に遠ざかれないじゃん。男から見れば"セックスしないと価値の無い女"なんだから急に拒むのもおかしな話で、隠し事はすぐバレてしまう。だから風邪をひいただとか仕事が忙しいっていう理由付けをして男と会う事を遠ざけていたんだ。その間に引越しや何やらの手続きをしたり、実家に帰ればいいものをこの女はしなかった。

 …一抹の希望を持っていたのさ。会えない時間に「寂しい」と言ってもらうのを待っていた。風邪をひいたと言った時、真っ先に駆けつけてお粥の一つでも作ってもらいたかった。「俺が愛してるのはお前だけだ。結婚しよう。」って言ってくれるのを待っていた。だけど、そんな事はまずありえない。ありえる男なら初めからそうしないだろ。そんな男の子どもだから、余計実家にはどう説明していいかわからないで踏ん切りがつかなかった。この女は弱いんだ。その弱さが自分だけに向けられるのなら良かったのに、生憎腹には僕が住んでいる。そこまで考えなかったのかね?やっぱり追い出された世界の人間っていうのは馬鹿だ。
 馬鹿は馬鹿なりに上手くやろうとはしないものなんだね。それが今の状況。大きな音で目が覚めたけれど、起きた瞬間女の思考が俺にぐいぐい入ってきて止めようとしない。急に男が訪問してきた事。何故会えなかったか理由を追求された事。セックスを要求されたが、僕が腹に住んでいる状態で出来る筈もない。これで堕胎したらお笑い種だもんな。これまでの我慢と苦労はなんだったって話になる。

 だけど男も馬鹿じゃない。だけど女は馬鹿だ。追求されたら答えを言ってしまう。抗えないのと、まだまだ希望を握り締めていた。その希望はお察しのとおり、踏み潰されて粉々になった。そっから今現在に至るってわけ。笑ってもいいよ。え?笑えないって。あ、そう。


3


 それで今女がタコ殴りね。騒音にも慣れてきたし、振動も余震みたいなもんだと考えればまだまだいけるよ。だけど、さっきも言ったように"まだ人間できてない"の。だからいつぽっくりいっちゃうかわかんないっていうね。あ、やっぱ痛いよ。この女が「痛い」って思ってるもん。だから僕はその痛さを感じている。…色々な制裁かなとも思うよ。きっとね、前世で僕すげぇ悪い事してるんだと思うの。ものっすごく悪い事。だから産まれさせてももらえないっていうね。どんな悪い事かっていうとね、多分この男がやってるような事をやってるんじゃないかな。腹ボテの女の腹を靴で蹴りつけちゃうような。妊娠の事実を知らないって突き通せばデートDVとかできっと収まっちゃいそうだもんね。何しろ女がこれだし。「はい、そうです」って言っちゃいそう。そんで後から後から後悔し続けて自殺しちゃうんじゃないかなぁ。あ、でも今思ってるのは「死ぬのは嫌だけどこの子と一緒なら私は死ねる」って言う事かな。迷惑だよね。お手々繋いで「一緒に天国へ行きましょう〜」なんて言える訳ないもの。追い出された世界を追い出された世界に行くんだ。きっとまた記憶は無くなって一から始まるよ。それを僕は知っている。この女は知らない。ただ、今は悲劇のヒロインなんだ。自分の愛する男と自分との間に出来た奇跡の一粒を守るのに必死な悲劇のヒロインだよ。僕としては諦めがついているのにね。そう、もう諦めのアプリケーションは作動済み。自分をアンインストールや初期化出来ればいいんだけど、それは自分では操作出来ない。"まだ人間できていない"ので。

 人ってさ、凄く傲慢だよね。実際バレなくてこのまま男が気付かなくて出産しちゃってたらどうするんだろう。こんな男の事だ、不慮の事故に見せかけて産まれたての僕を殺すかも知れない。それこそ「だっこしてたら暴れて落ちました」とかでもきっと僕は死んでしまう。窒息させるのも簡単だろうし、なんでも出来る。この世界の記憶が残っていたとしても抗う事なんて出来ない。僕が出来上がっているのは脳だけだからだ。歩く事も喋る事も食べる事もままならないただの考える有機物に成り下がるだけ。そんな僕を殺す事なんて簡単さ。そんな事が起こるとも想定していないんだろうね。頑張って12歳位まで生き延びてもひき逃げだとか色んな方法はあるんだ。僕はそんな恐怖と戦って生きていかなければならないのに、それなのに産むなんて傲慢だとは思わないかい?

 …嗚呼でもその心配はなさそうだ。もうそろそろ駄目だな。この女自体がサーバーダウン状態だよ。気絶だったらいいんだけどね。ちょっとずつ呼吸が出来なくなってきた。と、いう事は殺したんだろうな。そりゃこんだけ僕も長い時間喋っていたんだ。その間ずっと殴られ続けていたのなら仕方ないね。死んでしまうのも仕方が無い。こんな非情な男を愛して希望を見出そうとしていた愚かさに更に追い出された世界で乾杯するしかないのかな。あ、でも僕は未成年だし更に追い出された世界でお互い顔も合わせづらいし覚えてるとも思えないからここでしておこう。「乾杯」。胎水で乾杯なんてオツなもんだよ。どれくらいの人間が経験してるかアンケートでも取りたいものさ。大体そういう奴らはペンすら握れないだろうけどね。
 …うん。もうそろそろ駄目だな。眠るようにして死んでいくか。どうせ産まれても辛かっただけなら来世に賭けるしかないね。来世はもっと愛されるような女の腹に住んでひねくれた考え方をしない胎児として生活したいと思うよ。

 結局君の名前も聞かず仕舞いだったね。礼儀を欠いてしまった。申し訳ない。だけど、僕に名前が無いから自分の名を名乗れ無かったんだ。自分の名を先に名乗るのが礼儀だろう?出来ないからすっ飛ばしてしまった。あまりにも君がゆっくりと聞いてくれるものだから、つい。悪かったね。多分女がつけてくれようとした名前があるんだけど、いくつか候補があってどれがいいか考えてる最中みたいだったんだ。気に入った名前はあったよ、たしか、た


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 プツリと世界が停まった。部屋には横たわった女と息を荒らげた男が立ちすくんでいる。一仕事を終えたような顔で煙草に火を点け、どっかりとソファーに座った。「めんどくせぇ」と、小さく言葉を吐いて煙草を喫む。男は心底女の事がめんどくさかった。遊ぶには申し分ないルックスだったしセックスの相性もよかった。けど、"めんどくさかった"のだ。遊びで割りきりたかった。家に帰れば妻も子も居る。世間体もあるので家庭を持った男にとっては大事なものだ。せっかく作りあげたものを壊されるのも癪だし、また作り直すのもめんどくさい。現状でいいのだ。妻だって遊ぶ位は見て見ぬふりをしてくれている。妻もまた"世間体"で結婚したのだろう。そして、それで子どもを産んだ。同類だ。咎める事なんてされる理由がない。
 だけどしくじった。ピルを飲んでいるなんていう言葉はただの甘い囁きだったのだ。ただの遊びの女に騙されたという事が男のプライドを傷付けた。

 だが、少々やり過ぎてしまったようだ。そんな事を考えながら灰皿に煙草を押し当てる。



 やってしまったものは仕方がないのだ。また同じ道を辿るしか無い。

 そして女の腹に向かってこう言う。

 「わりーな。来世も同じ結果だわ。」

 と。


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 プロットはずっと持ってたんですが、書くのに時間がかかった挙句出来栄えとしては最悪なので精進したいです。

 堕胎は本人次第で、というのが私の考えではあります。自分の宿した物に責任を持つ持たないは宿下側が持つ問題なので世間一般でいう倫理とかなんたらうんにゃらは通じない所があると思ってもいます。
 そこで討論とかにはなりたくないのでご勘弁を…。

ブランコのむこうで

 著者:星新一
 発行者:佐藤隆
 発行所:株式会社 新潮社
 1978年5月25日発行

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 「いいんだよ、これで。そこの道をいろんな人が、わたしに声をかけて歩いていった。声をかけてくれなかった人も、わたしの姿を目にとめていってくれたんだ。その人たちがいたからこそ、わたしはきょうまで熱心に意志ととりくんでこられた。あっと声をあげさせ、目を丸くさせるようなものは、とうとうできなかったけれどもね。いまになって考えると、それらがありがたいことに思えてきた。いまとなってはお礼もできない。しかし、この道はこれからも多くの人が通ってゆくことだろう。その人たちの役には立つじゃないか。ころぶ人もなくなる・・・・・・」
 

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 初、星新一。「ショートショートの神様」と言われていた事は知っていたのだが手をつけられずに今に至るわけである。それなのに本作「ブランコのむこうで」は200頁程の本だが"長編"である。初めての作家さんに手を出す時の本の選び方が下手くそだなぁといつも思ってしまう。けれど、自分なりに考えてこれなのだ。いただき物だけれどジャック・ケッチャムの本は「隣の家の少女」から入り別の作品を未だに読み倦ねている。何故なら、他作品の評価で「インパクトに欠ける」等というのを耳にしてしまっているから。平山夢明の「メルキオールの惨劇」も「平山夢明初心者用」等という評価が強い為、結局殆ど最後の方になっているのもその理由。(「メルキオールの惨劇」については満足のいく物だったから良かったんだけれど、全部が全部そう言えるとは限らないので…言わば臆病者である。)
 なので今回も有名な作品を先に読んでしまうと、後から読む作品の満足度が得られなかったら…という怯えにより"長編"を選択。…まぁ、星新一作品は"星の数ほどある"ので怯える必要性はないんですけどね。

 優しい文章が進む。優しい文章はとても苦手なんだけれど、なんだか違う。甘い文章じゃなく、お父さんが語るような優しい口調で進んでいく。私はこういう文章が大好きだ。残虐でグロテスクなものも大好きだけれど、純文学も好きなものでこれはいい!

 本作は「西岡兄妹を全て文章にした感じ」に近しい気がする。西岡兄妹好きの私には歓喜っ…!!
 西岡兄妹のような狂気さを感じる事は少ないのですがとても近しい感じ。これは星新一作品を読み続けるしか無いと思っています。

 少年と夢のお話。当時は"ファンタジー"で括られていたようですが、SFですね。奥に行くに連れて辛いけど、優しくなれる。素敵な本でした。


ブランコのむこうで (新潮文庫)

ブランコのむこうで (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日(中)

 著者:舞城王太郎
 発行者:佐藤隆
 発行所:株式会社 新潮社
 2011年2月1日発行

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 ルンババ12に言われてすぐさま作業に取りかかるエンジェルバニーズをよそに、俺は立ちつくしている。
 俺がいたからみんなが…?
 俺のせいでみんなが間違い、俺のせいで名探偵が死んだってことか?
 「まあ気にすんなや。あんたかってあんたの理由で来たんやろうで。間違えたもんが悪いんや」

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 約一ヶ月振りに上巻の続きを読む事にした。本作は「上・中・下」と別れており、頁数は「上<中<下」である。今回読了した中巻でも「485頁」というまずまずの頁数。これが下巻になると「603頁」もあるから少しげんなりする。「新世界より/貴志祐介」も「上・中・下」と結構な冊数があったのだけれど、読みやすさでは群を抜いていたので苦では無かったし、物語としても動きが強かったのでサクサク読み進められたのですが、本作は少し苦手かもしれない。と、いうか実際意味が分からない所が多い。
 名探偵が続々と揃って名推理をしていくんだけれど、凡人(読者)には理解不可能な頭の回転スピードで謎は解かれて行く。それは上巻でもそうだったし、前回の感想(ディスコ探偵水曜日(上) - 55book)でも書いた通り、悩むのは主人公の「ディスコ・ウェンズデイ」だけでいいのだ。
 なので私は訳が分からず読み進める結果になる。きっとそこでたまたま推理を聞いてしまった警備担当の警察官のようなポジションのつもりで。不思議なパインハウスの空間。謎が謎を呼び、答えは謎を解く度増えていく。何故、何故ディスコ・ウエンズデイがいなければならないのか。何故導かれたのか。何故、水星Cが、梢が、パンダ事件が…もう頭の中はぐるぐる。
 …だからといって面白くない訳ではない。舞城作品は改行が結構少なく読み途切れる所を何処にすればいいか迷う事が多い。其れくらい文章の詰まり方も半端ないのだ。そして謎が謎を呼ぶと記したように、推理が半端無く多い。だからついていけずにさらにぐるぐるする。

 けれど、実際問題400頁は一つの事件の推理で埋め尽くされるとダレるものがあるのが事実で、「本を閉じてしまおうか…」と思う事が幾度か。だけれど、此処で閉じてしまうと多分きっと一週間は放置してしまう気がする。そこまでテンションを上げなければならないし、モチベーションを維持しなければならない。それはそれで面倒くさいし推理の内容も忘れてしまいそうだったので一気にガッツリ読んでしまった。

 気になる終わり方で締められた中巻。下巻は別の謎から入るはず。終着点はどこになるのだろう?きっとどの終着点に降り立ってもこの本の答えは"其れ"なのだ、と感じてしまう。そんな感じである。


ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)