象られた力

 著者:飛浩隆
 発行者:早川浩
 発行所:株式会社 早川書房
 2004年9月15日発行

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 「おまえは・・・・・・だれだ」
 「知りたいか、緒方」落ちつきはらった声だった。「教えてやろう。だがその上等の耳はくそで塞いどけ。それは必要ないのだ。なぜって、おれの名は音ではないからな」
 声の主は、名乗った。音でない名乗りが、なされた。
 冷気。死臭。
 今度はそれが、ぼくの中から襲ってきた。
 きっとベッドの上であびてから、それはずっと身体の中でしずかに機会をうかがっていたのだ。自分の吐く息が、舌に霜が降りそうなほど冷たかった。思わず頬を覆った両手にはあの悪臭が染み付いていた。

 「デュオ」より抜粋

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 「デュオ」
 「呪界のほとり」
 「夜と泥の」
 「象られた力」

 結構前に読了していたのですが、感想を書いたつもりで書いておらずこのざま。いけませんね。最近自由な時間が増えて本を読む時間が増えるぞ!と意気揚々としていたのですが、自由な時間程「後で後で」と思ってしまい、やっぱり時間は縛ったほうがいいのでは?という日本人的考えを持っているのだなぁと痛感しております。

 そんな事はさておき。

 大好きな飛先生の作品。表題「象られた力」は第26回日本SF大賞受賞作品であり、読むのを躊躇っていたりしておりました。知人が「早く読め」と声を踊らせて言うので、その時読んでいた本を読了後すぐさまとりかかったという感じでしたね。

 「呪界のほとり」も「夜と泥の」も、勿論「象られた力」も素晴らしかった。だけど一番初めに載っていた「デュオ」に私は心を全て奪われました。
 小説を読む身として、この作品に出会えた事が嬉しかった。
 テーマは「音楽」と「生と死」。音楽漫画や音楽小説は数多くあるけれど、ここまで心惹かれる物が果たしてこの後出現するか私は答えを弾き出せない。
 寧ろ、「デュオ」が自分の中で一番愛してやまない「音楽小説(分類の仕方がおかしいかもしれないけれど)」がこれであって欲しいという願望が強い。

 内容は"双子の天才ピアニストをめぐって"と言うと言い得て妙だが正しいと思う。

 とにかく読んで欲しい。「デュオ」が気に入らなければその他3作品どれかが、いや、もしかしたらどれもがヒットするだろう。
 是非。ここまで推せる本はまず、無い。


象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)