ブランコのむこうで

 著者:星新一
 発行者:佐藤隆
 発行所:株式会社 新潮社
 1978年5月25日発行

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 「いいんだよ、これで。そこの道をいろんな人が、わたしに声をかけて歩いていった。声をかけてくれなかった人も、わたしの姿を目にとめていってくれたんだ。その人たちがいたからこそ、わたしはきょうまで熱心に意志ととりくんでこられた。あっと声をあげさせ、目を丸くさせるようなものは、とうとうできなかったけれどもね。いまになって考えると、それらがありがたいことに思えてきた。いまとなってはお礼もできない。しかし、この道はこれからも多くの人が通ってゆくことだろう。その人たちの役には立つじゃないか。ころぶ人もなくなる・・・・・・」
 

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 初、星新一。「ショートショートの神様」と言われていた事は知っていたのだが手をつけられずに今に至るわけである。それなのに本作「ブランコのむこうで」は200頁程の本だが"長編"である。初めての作家さんに手を出す時の本の選び方が下手くそだなぁといつも思ってしまう。けれど、自分なりに考えてこれなのだ。いただき物だけれどジャック・ケッチャムの本は「隣の家の少女」から入り別の作品を未だに読み倦ねている。何故なら、他作品の評価で「インパクトに欠ける」等というのを耳にしてしまっているから。平山夢明の「メルキオールの惨劇」も「平山夢明初心者用」等という評価が強い為、結局殆ど最後の方になっているのもその理由。(「メルキオールの惨劇」については満足のいく物だったから良かったんだけれど、全部が全部そう言えるとは限らないので…言わば臆病者である。)
 なので今回も有名な作品を先に読んでしまうと、後から読む作品の満足度が得られなかったら…という怯えにより"長編"を選択。…まぁ、星新一作品は"星の数ほどある"ので怯える必要性はないんですけどね。

 優しい文章が進む。優しい文章はとても苦手なんだけれど、なんだか違う。甘い文章じゃなく、お父さんが語るような優しい口調で進んでいく。私はこういう文章が大好きだ。残虐でグロテスクなものも大好きだけれど、純文学も好きなものでこれはいい!

 本作は「西岡兄妹を全て文章にした感じ」に近しい気がする。西岡兄妹好きの私には歓喜っ…!!
 西岡兄妹のような狂気さを感じる事は少ないのですがとても近しい感じ。これは星新一作品を読み続けるしか無いと思っています。

 少年と夢のお話。当時は"ファンタジー"で括られていたようですが、SFですね。奥に行くに連れて辛いけど、優しくなれる。素敵な本でした。


ブランコのむこうで (新潮文庫)

ブランコのむこうで (新潮文庫)