生き屏風

 著者:田辺青蛙
 発行者:井上伸一郎
 発行所:株式会社 角川書店
 2008年10月25日 第一刷発行

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 皐月はいつも馬の首の中で眠っている。
 そして朝になると、首から這い出て目をこすりながら、あたかも人が布団を直すかのように、血塗れで地面に落ちている馬の首を再び繋ぐ。その後で馬体を軽く叩いて、「おはよう」と言ってから朝食の準備を始める。
 馬の名は布団と言うらしい。そのまんまだ。

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 「生き屏風」
 「猫雪」
 「狐妖の宴」

 「NOVA 2」で田辺青蛙ショートショートを読んで「あ、この人の作品気になるな」と思った。
 表題作は第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作だったので、期待出来ると思って購入。
 和風ホラーは本当に久々で小説というジャンルを"大人"として手に取り始めた時から、疎遠。"お化け"が出るような本は小さな頃に読んでいたりとはしていたのですけれどね。

 とにかく読みやすい。そして冒頭部分から持って行かれた感が半端ない。抜粋させていただいた文章は「生き屏風」の冒頭です。「馬の首の中で眠っている」なんて想像した事もない!(民俗学的なバックボーンがある等の話は東雅矢さんの解説でお読み頂ければいいかと)
 ゆるりゆるりとした感じの文体。後ろからこんにゃくをヒヤリッ!等という物は一切無い。主人公の皐月は妖(あやかし)なのだけれど、人に恐れられるだとかそういうのはあまり感じられず、村で皐月なりの役割を果たす「仕事人」なイメージが結構強い。だから村人との距離感があまり無く、どちらかというとたまに馬鹿にされてしまう。だけど、それで怒り狂ったりなどという事は、無い。ゆるりゆるりとしているのだ。

 "ホラー小説"という看板は立てかけられているが、お伽話のようなそんな感覚。全体的に「美しい」という感想も抱けるんじゃなかろうか?
 皐月が出るシリーズはまだあるっぽいのでまったり読んでいけたらなぁと、思う。


生き屏風 (角川ホラー文庫)

生き屏風 (角川ホラー文庫)