全思考

 著者:北野武
 発行者:見城徹
 発行所:株式会社 幻冬舎
 2009年4月10日第一刷発行

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 だいたい、今の社会は、人生とは何かと、人間の生きる意味は何かみたいなことを、言い過ぎる。若い人には、それが強迫観念になっている。何かというと、そういうことを言う大人が悪いのだ。自分たちだって、生きることと死ぬことの意味なんか、絶対にわかってないくせに。
 天国や地獄が本当にあるのかも、神様がいるのかいないのかも、誰も証明したことがないわけだ。そういう曖昧な状態なのに、生きる意味を探せなんてことを言われたら、誰だって迷うに決まっている。自分の能力だけで、その迷いから抜け出せる人間なんて、ほんの一握りなのだ。

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 北野武という人のエッセイを初めて読んだ。と、いうかこの人の作品というものに触れるのが初めて。北野武と言えば"人生成功してる人"と言っても過言では無く、そういう人の言葉というものは人を飲む印象が強いです。「成功しているからこそ言える事」なのに、私達の多くは「成功したから言える事」と勘違いする事が結構多い。そういう固定概念(私がひねくれているだけでしょうか…)を全部ぶっぱなして読む事を決意して読んでみた。

 読み始めから読み終わりまで自宅以外の所で読んだのですが、涙をボロボロ流しながら読んでもおかしくない所が沢山あった。全てにおいて共感出来る訳じゃない。同じ事を繰り返し繰り返し言う場面も沢山あって、文章として拙い部分もあった事は事実。けれど、今の大学生(平成生まれらへんでしょうか)辺りに読んで欲しいと思える本なんじゃないかなって思った。

 実際、色んな経験をしたいい大人の言葉を読んだり聞いたりする事なんてそうそうなくって、聞いたとしても聞き流してしまう事って多くて、素直になれない事が多い。けど、本っていうのはちょっと違う。自分のいい時に、いい気持ちで、いい条件で読む事が出来る。それって吸収出来るって事だと思う。
 全てを吸収すべきではない。全てを吸収してしまっては無個性になってしまうからだ。ロボットを作る為に人は自分の意見を書き連ねた本を出すのでは無い。そして、読むのでは無い。

 読んでよかったなぁと思った。何か自分の言葉に出来ない気持ちを読めた気がして少し嬉しい。


全思考 (幻冬舎文庫)

全思考 (幻冬舎文庫)