【番外編】やんこま×小林銅蟲「エンターブレイン」【行ってきた】
web漫画になりますが、ねぎ姉さんが面白いんですよ。ハマってそんなに時間は経ってないんですが、web公開されてる物は全部読んだし、販売されてる本「ねぎ姉さん10^3」「小林銅蟲ランド(1)」は所持しております。「小林銅蟲ランド(1)」は発売直後に購入したので苦労は無かったのですが、「ねぎ姉さん10^3」の方は販売している模索舎さんの方で絶版扱い。悔やんでも悔やみきれない状態が続き、Twitterでねぎ姉さんの作者小林銅蟲(@doom_k)にあろうことか愚痴る私。するとなんと直接販売してくれる等という奇跡が起こる。
ヽ(´ー`)ノ銅蟲先生ありがとうございます。
再読して更にハマる。姉に見せる。銅蟲ランドも見せる。取り敢えず友達にも教える。「え」と言われる事も増える。だがしかしねぎ姉さんファンの友人と考察したりして楽しむ毎日。
いつものようにweb頁へ飛ぶと「絵の展示あります」という表記。リンク先に飛んでみるとmogragというweb頁へ。
詳細を見ると「生原稿盛りだくさん」との事。銅蟲先生のTwitterpostでは「在廊」という言葉。
行きますか?行きませんか?
5日程葛藤の末、ねぎ姉さんファンの友人(@aomoriringo)を道連れに行く事を決意。本当にこれだけの為に行く予定だったのでほぼ友人には行く事を言わずちまちま準備。ゴメンナサイ。仕事が落ち着いたらゆっくり行ける時間作るのでその時に遊んで下さい。ほんとゴメンナサイ。
私が訪問させていただいた日は6/4(Sat.)在廊しているという情報もあったので友人と2人で「小林銅蟲ランド(1)持って行こうぜ!サインしてもらおう!」という企みと共にいそいそと国分寺へ。初国分寺。出発を決めたのは一週間ほど前だったのですが、その時の東京の天気は曇or雨予定。がっくり来ていたのですが当日まさかの晴天。…実は私めちゃくちゃ晴女で、しかもテンションが死ぬほど上がってる時程雨が降らないんです。でも特殊能力発動しすぎて暑すぎ。取り敢えず暑い。ぶっちゃけ倒れそうな位暑かったです。
地図を頭にぶち込み「こっちだろう」というアバウトな感じで歩く。どれくらいの会場かもわからず、「もしかしたら入り組んだ中にあるかも…」等という話をしていると発見。
…ちっさ!!めっちゃちっさ!思わず友人の腕を強く掴み「…あった…!!!!」と小声に。(後にmogragさんのサイトをよくよく読ませて頂いたらガレージを改装して作っているんですね。そりゃちっさいですよ。)
2人して興奮しながら展示品を見る。銅蟲先生の大学時代の漫研のノートだとか色々置いてあって見る。笑う。「ヤバい」を連呼。取り敢えず「ヤバい」。何がヤバイって私ら銅蟲先生好きすぎてヤバい。日差しに刺されながら銅蟲先生が横で蟻の話を熱心にお話されてるのを耳にしながら「ヤバい」連呼。ふと頭を上げると、天井からはねぎ姉さん1話の生原稿が。2人で爆笑。「やばい!これ1話だ!!!」とギャーギャー騒いでいました。他のお客様がおられなくてよかった。ほんと私たち五月蝿かった。ごめんなさい。
そんな騒いでいる私たちに銅蟲先生から「こっちが3話からの分」と生原稿を渡しながらお話かけ頂きました。ぎゃー!生銅蟲ー!うわー!こないだ卵白ラジオ見てました。はい。色々解説を頂いたり、ねぎ姉さん見過ぎている私たちは原稿の空白部分に「ここ戦車入るよね」とかいう多分普通の人から見たら「よく覚えてるなww」というような話題で盛り上がる。分からなかったら「うわー!わからん!なんだっけ!」と悔しがったり。
友人が描いてもらったねぎ姉さんカレー食べる図
私が描いてもらったねぎ姉さんと黒姉さんのしゅばばばの図。
そしてわざわざ「ねぎ姉さん10^3」を送っていただいたお礼を言うのに吃る。
私「あの、その、えっとあのねぎ姉さんの前の本…」友人「10^3?」私「そうです、それを送っていただいた奈良の者です」ねぎ「あ、午後茶さん?」
ヽ(´ー`)ノまさか覚えていて下さるとは…。感激です。
友人「これを見に奈良から来たんです、彼女」ねぎ「ああ、どいつもこいつも」
ヽ(´ー`)ノありがとうございます。いただきました。
そっから小さいけれど私にとっては宝の山の数々を見る。「食い物の拡がり」の生原稿を見て「ここは『ほかめしる!』だったよな」と友人と言ったり、ねぎの輪切りの元ネタを見せてもらったりともう充実。アシナガアリ(だったと思います)も、角にちょこんと居ました。流石蟻好き。
素晴らしい空間。ほんとにこれだけの為に奈良から来て良かったと思える程感動。まさか目の前にねぎTを着た銅蟲先生が居てお話してくださるとは。感激!好きすぎてヤバいですからね。作品も素晴らしい物ばかりでした。先生の描く線が物凄く私の中で心揺さぶられる物があるので凝視。スポイドが流行っていたりしたそうでその作品もありました。それをローラーで転がして真っ黒になっていたり「逆アイス味」だとか…なんだそれ…。後、色々裏話と言っていいのか展示品についても教えて下さったり、作品についても教えてくださったり、最近発売されたまんがぶらふチアーズ!も銅蟲先生参戦だったので通販でゲットしていて其れについての事もお話頂いたり、「10^3」で各話にコメントが付いているんだけど、付いていない分もある等の話をしたり…。充実!充実!!
そしていつ帰るか帰らないかの雰囲気をふわふわ出すか出さないかの時に、まだ時間に余裕がある私たちを奥まで通して下さいました…!これ書いていいのかわかんないんだけど、口止めされていないので書いちゃう←
奥には一緒に展示をなさってるやんこまさんと何と私の大好きなメンヘラちゃんの作者琴葉とこ(@kotohatoko)先生がががが!…可愛い!やだほんともう可愛い!「見てます!」と気持ち悪い自己アピール。そしたら銅蟲先生が「何か描いてあげなよ」と、とこ先生に!「一緒に描くから何か紙」と、まさかの合作!?
ヽ(´ー`)ノ近々死ぬかも知れないと本気で感じた。
これがその絵。…なんともミスマッチング…。だけど感動し過ぎて目眩した。そして全然喋れてない私!
友人が臆せず話してくれたので私は楽しくその会話を聞いていました。
「来月から無職なんです(ガチ)」というと「ああ、どいつもこいつも」と再度いただきました。ありがとうございます。
ぶっちゃけた所、銅蟲先生を2時間半程2人で独占しました。展示見にこられた方もおられただろうと思うと心苦しいのですが、いや、でも、何か幸せだから、うん、という駄目な気持ち。
とにかく…!とにかく楽しかった!超楽しかった!行って良かった!最高だった。本当に本当にありがとうございました。
帰り道に「あ…写真とか全然撮ってない…」と項垂れて帰ったのですが@mograggarageさんのpostを見てみると
元url→http://twitpic.com/56pdra
元post→銅蟲さん接客なう http://t.co/ZI4eJsy
左から:友人(@aomoriringo)(興奮)、私(@55cha)(興奮)、銅蟲先生(@doom_k)
…ハッ…!まさか@mograggarageの中の人は同じ奈良出身の太田さん(…お名前うろ覚えでなければ!)…!
まさか激写されているとは思ってもみませんでした。多分、興奮しすぎて気持ち悪くて撮って下さったんだと思います。いい記念になります。ありがとうございます。本当にありがとうございます。
とにかく幸せな時間を過ごせました。特に銅蟲先生、そしてmogragさんありがとうございます。とこ先生も本当にありがとうございました。
そんな銅蟲先生の本如何でしょうか。→こちら
またこういう機会を設けていただけたらいいなぁ。更新も楽しみにしています。ご無理なさらず頑張って頂きたい。
楽しかったー…。幸せだー…。
チルドレン
著者:伊坂幸太郎
発行者:鈴木哲
発行所:株式会社 講談社
2007年5月15日第一刷発行
- -
そこで、ただ一人口を開いたのが、それまで興味がなさそうに食事をしていた、陣内さんだった。「昨日のテレビで何をやっていたか、知らねぇけどさ」と面倒臭そうに前置きをしてから、「少年ってのは一種類じゃないっつうの」と言った。
「何だよてめえ」中年男が喚いた。なかなか、迫力のある声だった。「しょせん、非行に走った奴はどうにもなんねえんだよ」と声を荒らげた。
「うるせえなあ」と陣内さんはさらに億劫そうに、耳を掻く。「あのさ、映画評論家が年間、どれくらい映画を観るか知ってるか?」
何を唐突に言うのだ、と男たちは鼻白んでいたが、首をひねると、「そりゃ、何百本も観てるんじゃないか」と言った。
「その評論家にだ、テレビの洋画劇場しか観たことのない素人親爺が、『映画とはしょせん』と語ったら、どうだよ?ひどく間が抜けていると思わないか。あんんたたちが今、喋ってるのはそれと同じだよ。俺たちは何百人っていう少年に会うんだぜ。分かるか?あんたたちは今、専門家に講釈を垂れているんだ。こいつは、かなり、恥ずかしい。だろ?」
- -
「バンク」
「チルドレン」
「レトリーバー」
「チルドレンⅡ」
「イン」
初伊坂幸太郎。「重力ピエロ」や「グラスホッパー」、「オーデュボンの祈り」等は有名なのできっと知らない人の方が少ない筈。書店でも平積みされていたりと、気にはなっていたのですが天邪鬼が発動。『有名な作品や数多く愛されている作品は"当たり障りの無い"ものが多い』という持論をいつか打破出来ればいいのですがそうもいかず…。なので上記した作品を買わなかった訳です。基本的に短篇集大好きだというのもあるので「チルドレン」を購入。
そしてまず読み始めるのに時間がかかるかかる…。ガチガチのSFにはまっているのでまったりとしたものはきっと物足りないだろうなという感覚が真っ先に。それでも意を決して!!
流石というか何というか物凄く読みやすい。そして綺麗。短篇集という名前は上げているが主要人物は変わらない。その主要人物のインパクトが凄く強い。熱血はうざいけれど、熱血というような感じでもない。どちらかというと粗野に近い感じ。だけど、そうでもない。こう…何か清々しい感じなのだ。其れが抜粋部分には色濃く出ている気がする。
大体が"日常"に浮かぶ"非日常"のお話。当たり前だ。ただだらだらと日常を記すなら誰でも出来る。けれど、"非日常"的な事をナチュラルに"日常"だと感じさせる事は簡単な事では無い。著者はこういう所に物凄く長けているのではないかというそんな感じ。
時間軸がバラバラだけれど、後から出てくる発見もあって面白い。何といっても「陣内」のキャラクターの強さはピカイチで熱いものが感じられる。本当はこういうキャラが出てくる小説は好きじゃないんだけれど、憎めない。なんとなく。嫌いじゃない。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/15
- メディア: 文庫
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ミノタウロスの皿
著者:藤子・F・不二雄
発行者:鈴木総一朗
発行所:株式会社 小学館
1995年8月10日第一刷発行
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そうか………
正ちゃんにも子どもがね……
と、いうことは……
正ちゃんはもう子どもじゃないってことだな……
……
な……
「劇画・オバQ」より抜粋
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「オヤジ・ロック」
「じじぬき」
「自分会議」
「間引き」
「3万3千平米」
「劇画・オバQ」
「ドジ田ドジ郎の幸運」
「T・Mは絶対に」
「ミノタウロスの皿」
「一千年後の再会」
「ヒョンヒョロ」
「わが子・スーパーマン」
「コロリころげた木の根っ子」
- -
藤子・F・不二雄作品はちょろちょろと読んだ事があります、が、やはり子ども向けで其の中にふと戒めがある、そういう強さのある作品だと認識してました。
本作の感想は一言で言うと「怖い」です。
妙な納得をしてしまうのは「じじぬき」というお話。甘いものはずっと甘くは無いのです。それを私たちは日常で感じている筈なのにいつも気付かずにふらふらとしてしまう。その怖さにぞくっとしたり。
「わが子・スーパーマン」は自分が手にするものと自分とのレベル合わせの問題が強く出されている作品。可愛い子どもの笑顔で締められるのですが、それが更に恐怖を誘います。
表題の「ミノタウロスの皿」はあまりの凄さに読み終わった後笑いが出てしまった位。
「コロリころげた木の根っ子」なんかはニュースを見ているかのようになる。
小説は読むのに時間がかかるという人が多いでしょうから漫画なら手を付けやすいと思います。じっくり読んでも1時間〜1時間半程で読み終わるでしょう。
その1時間〜1時間半。貴重な物を得れる筈です。是非是非に。
ミノタウロスの皿: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 1 (1) (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/07/15
- メディア: 文庫
- 購入: 26人 クリック: 257回
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虐殺器官
著者:伊藤計劃
発行者:早川浩
発行所:株式会社 早川書房
2010年2月15日発行
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CEEP、という言葉がある。幼年兵遭遇交戦可能性(チャイルド・エネミー・エンカウント・ポシビリティ)。
そのままだ。初潮も来ていない女の子と撃ち合いになる可能性だ。
その子の頭を、肋骨の浮き出た満足に乳房もない胸を、小銃弾でずたずたにしなければならない可能性だ。トレーサビリティ、エンカウンタビリティ。サーチャービリティ。ビリティ。ビリティ。ポシビリティ。世界にはむかつく可能性(ポシビリティ)が多すぎる。そして実際、その言葉が使われた場合の可能性は百パーであって、そこではもはや「ビリティ」の意味など消失している。ビリティは詐欺師の言葉だ。ビリティは道化師の言葉だ。
ことばには臭いがない。
映像にも。衛星画像にも。
そのことにぼくはむかつきを覚える。
脂肪が燃え、筋肉が縮ゆくあの臭い。髪の毛のタンパク質が灰になるときに出す臭気。人間の焼けるあの臭い。自分はそれを知っている。馴染み深いとは言わないが、この仕事を長年続けるうちに、幾度となく嗅がざるを得なかった臭気。
火薬の燃える臭い。民兵たちが古いゴムタイヤを狼煙に燃やす臭い。
戦場の臭い。
衛生の映像を見ていて、ぼくの胸に沸き起こってくるのは不快感--胸糞悪い。なにが胸糞悪いって、それは映像のグロテスクさではなく、むしろその逆--こうして映像で見ていて、ぜんぜん胸糞悪くならないから--その胸糞悪くならなさが最高に胸糞悪い。屍体を冷たく見下ろす衛生のレンズ群は、凍りつく真空の星空にあって、地上の臭気とは無縁の、とりすました残酷な神の超越性を真似ている。
かわりに、このフォートブラッグの特殊作戦本部で匂うのは、会議室の建材の匂い。コンクリートや樹脂に染み込んだ補強用塗料の、単分子(モノマー)の真新しい香り。接合材の科学臭。
「これは航空宇宙軍の偵察衛星が四日前に捉えた映像です」
そう、国家対テロセンターから来た男は説明し、
「新インド政府の提訴を受けたハーグの検察部は、現在インド奥地で活動するヒンドゥー原理主義組合のリーダー八名に対し、逮捕状を出しています。罪状は人道に対する罪、子供を戦闘に動員した罪、そしてジェノサイド罪です」
すべての文民連邦関係者に共通する特徴を、やはりこの男の声も備えている。音声と内容とが奇妙に剥離している感覚--自分自身もはっきりとは理解していないジャーゴンを、綱渡りのようにぎりぎりでリンクさせ、意味を失う寸前で現実に繋ぎとめ、言葉を紡ぎだしている--そんな印象のことだ。単純に軽薄と言ってしまってもいいのかもしれないが、いわゆる流行というものにまつわる軽薄さとは異なる不気味なものが、そこにはある。ジェノサイド罪という言葉も、人道に対する罪という言葉も、どことなくこの男の肉体に馴染んでいない、そういった違和感。マクナマラが語ったベトナム戦争は、きっと軍人たちにはこう聴こえていただろうな、とぼくは思った。
- -
結構前からこの本の存在は知っていて、SF好きなら当たり前に知っている作品なんだけど、何度も言うようだが私はまだSF初心者である。ので、まだ知らない有名作品はゴマンとある。だけど、装丁とタイトルと著者の名前は目を引く物があって中々忘れる事が出来なかった。「メタルギアソリッド好きなら面白いかもしれないですね」というコメントを知人にもらい、実はそこで一旦諦めた口である。何故ならメタルギアソリッドの事なんてこれっぽっちもわからないからだ。やろうと思った事も無いし、やりたいと思った事も無い。実際映像で見る戦争ものは怖くてあまり見れなかったり。多分小さい頃、広島原爆の絵本をアニメ化した作品を一人で見たのが原因かもしれない。子供を抱き抱える母親の描写があまりにも怖くて泣きながら母の胸に飛び込んだ記憶が今でも鮮明に蘇る。幼稚園の頃から生き死にには非常に敏感で、ノストラダムスの大予言の時なんかは怖くて怖くて何日も泣いていたなんていう事も。じゃぁ何故本作を読んだかという疑問が産まれると思います。実際躊躇しました。でも、SF作品を読むにつれて伊藤計劃への興味は膨らむばかり。たまたま寄った本屋に置いてあった時は感激のあまり1分程静止(田舎なので充実した本屋さんが無いのです…)。恐る恐る中身を見ると意外と読みやすい文章の流れ。スラスラと10頁程を読んで「これを買うんだ」という決心が付きました。後、躊躇していた原因がもう一つ。2009年3月20日、34歳という若さで伊藤計劃がこの世を去っているから。亡くなった方の作品に手を出す事は私にとってとても勇気がいる事なのです(亡くなってから随分と経っている方に関しては諦めも着くけれど)。だけど、手にしてしまった。開いてしまった。読みたいと思ってしまった。そして、読んでから色々後悔もする事になる。
"どうしてもっと早くにこの本に巡り合わなかったんだろう。"という後悔だ。
文章表現としては多少残酷な表現が多い。目をそらせたくなる表現もある、が、そこらへんは平山夢明の小説を読みまくったせいで鍛錬されていて私には一切のダメージも与えなかった。描写が凄く鮮明に映像化される感覚が久しぶりでサクサクと頁を進めていく。戦争物は怖いけど、引き込まれる言葉の音と、匂い、空気がじっとこちらを見てる感覚になった。後、ストーリーが好みである。前回感想を書いた我語りて世界あり - 55bookにも共通して言えるのが"言葉"や"感情"である。若干インパクトに欠けるという感想が多いけれど、私にはこれくらいで丁度いい。これ以上いい物を与えられていたら私は悔やんでも悔やみきれずにこの感想を書いている事だろう。
"普遍"と"特殊"が混じり合った世界の中での"日常"を、是非感じて欲しい。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
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我語りて世界あり
著者:神林長平
発行者:早川浩
発行所:株式会社 早川書房
1996年1月15日発行
- -
戦闘アーマー群のところまできて、保安員は丸腰で保安舎を出たのを悔んだ。
一体のアーマーのわきに男が一人、泥にまみれたアーマーの表面をなでていた。愛おしむように。この男は−−
「桂谷軍曹」
思わず保安員は名を呼んでいる。
「名を呼ばれるなど久しくなかったことだ」
白髪の老人が言った。
「わたしは・・・・・・あなたと共感交していたようだ。夢じゃなかったんだな」
人間のすべてが感じたはずだ。保安員はそう思う。
「おや、あれは」
保安員はアーマーたちの巨体の間を歩いて来る三人の人間を見る。
「晨・・・・・・央に隼子か」
晨はアックスを、央がM29205DKU個性体をもっている。
近づいてきた央は、個性体を無言で手渡した。
「お返しします」と隼子が言った。「桂谷さん。あなたの過去です」
「自分を消して生きてきた」老人が低い声で言う。「あれはだれか他の人間のことだと思ってな」
「あなたはあなただ」
晨がそう言って、アックスの可変有機受容体を老人に差し出した。
「そしてそれも、そう思いたがってる」
「MISPANというプログラムがある。生きているよ」央が言った。「MISPANというのは極秘だったんだな。内容はだれも知らないんだ。でも使える」
「そうか」
「いけません」保安員は首を横に振る。「あなたも悪夢の世界へ逆もどりだ」
「それでもいい。わたしが得たものは、こいつだけだ。こいつは事実そのものだ」
「やるのか」
央は訊いた。老人はうなずいた。共感で、わかる。
老人は個性体を見つめる。そして言う。
「わたしはここにいる。わたしは唯一人、一人だけだ」
MISPAN、作動。
老人がくずおれる。四人の人間がかかえおこした。
「・・・・・・エムコンを外してくれ」老人がかすかな声で言う。「この世はうるさすぎる」
MISPANとはなんだろうと央は思う。人間と機会の融合作用をするのか。
保安員が老人の両眼のエムコンを外した。
老人の共感波が感じられなくなる。老人はこの世から消えてしまう。肉体より一足早く、心が消える。そして息たえた。
個性体が残った。
- -
「NOVA 2」で神林長平に魅了され即本屋で購入を果たしたのが「我語りて世界あり」である。「NOVA 2」に収録されていた「かくも無数の悲鳴」はまだまだSF初心者の私にとってはガチガチのハードSFで実際読むのには苦労した。でも、それでも面白かったという気持ちが生まれてしまってはしかたない。このままこの人の作品を読まない訳にはいかない、そんな気持ちが一番大きかったかもしれない。
この世界には個性がある。私が今この文章を書けるのは個性があり感情があるからだ。私が私としての名前を持ち、人格を持ち、容姿を持つことで私が形成されている。だが、作品の世界内では個性を持つ事は"罪"なのである。
統率する"神"と等しい存在があり、そこから派生すると思われる謎の"MISPAN"の存在。個性が無ければ感情も無い。でも、それでは生きていく事は出来ない。人は地図を持たずとして行き先にたどり着く事は難しい。だから、真っ白な紙にくっきりとその時その時の地図を書いてくれるような存在の"エムコン"を皆が装着する。それで全てが上手くいく。生きていける。皆が皆空っぽなのだ。OSだけがいれこまれたPCのように、自身で好きなソフトウェアをダウンロードも出来ず、"エムコン"がその時必要なデータをダウンロードして実行してくれる。
そこに個性を持つ3人の子供が現れ、"わたし"が現れる。姿形を持たないが、自我をしっかりと持ち肉体を求める"わたし"。個性を持つ事は罪だ。エムコンを外す事も罪だ。だが、それが可能な3人の子供。なぜ可能かと言うと"わたし"の存在で"外す"という事実がシャットダウンされるからだ。なぜシャットダウンされるのか、なぜこの3人は名前を持ち続けるのか、"わたし"とは一体何なのだろうか。
文体としてはSFを読み慣れないときっと難しいと感じると思う。私もまだまだなのでゆっくりと読んでじっくりと理解した。
流石巨匠というべきか、読み終わった後に「再読したい」という気持ちになる。簡単に言えばゲームの二週目だ。内容が全部わかっていて視点を変えて楽しい作品。結構こういう作品は数少なかったりするものである。
初めて読んだ神林作品(長編)だから過大評価かもしれないが、私はこういう設定が大好きだ。"言葉"や"感情"や"個性"。想像で産まれる未来の話の大体はコンピューターが牛耳る事が多い。だから尚更其れが大事になってくるのだと思う。そう思うと「アイの物語/山本弘」なんかもそれに当てはまるんだろうな。
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1996/01/01
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5月に読んだ本*読書メーターより
2011年5月の読書メーター
読んだ本の数:32冊
読んだページ数:7769ページ
■風花 (集英社文庫 か)
読了日:05月31日 著者:川上 弘美
http://book.akahoshitakuya.com/b/4087466841
■シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)
読了日:05月30日 著者:山本 弘
http://book.akahoshitakuya.com/b/4150309140
■デッドマン・ワンダーランド (10) (角川コミックス・エース 138-17)
読了日:05月28日 著者:片岡 人生,近藤 一馬
http://book.akahoshitakuya.com/b/404715699X
■よんでますよ、アザゼルさん。(1) (イブニングKC)
読了日:05月28日 著者:久保 保久
http://book.akahoshitakuya.com/b/4063522229
■惑星のさみだれ 1 (ヤングキングコミックス)
読了日:05月28日 著者:水上 悟志
http://book.akahoshitakuya.com/b/4785926058
■家族八景 (新潮文庫)
読了日:05月25日 著者:筒井 康隆
http://book.akahoshitakuya.com/b/4101171017
■NOVA 2---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)
作品の順番が恐ろしい程ベストで鳥肌が立った。恩田さんの「東京の日記」を今この時期に読んだ事が凄くて凄くて。「バベルの牢獄」には最後に声が出た。どうしよう、SFって凄く面白い。
読了日:05月24日 著者:東 浩紀,恩田 陸,法月 綸太郎,宮部 みゆき,神林 長平,倉田 タカシ,小路 幸也,新城 カズマ,曽根 圭介,田辺 青蛙,津原 泰水,西崎 憲
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11336672
■西の魔女が死んだ (新潮文庫)
当たり障りの無いいい作品だと思う。戒めの方が強いんではないでしょうか。読む年齢間違えた。
読了日:05月22日 著者:梨木 香歩
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11288305
■後藤さんのこと (想像力の文学)
理解できたら負けな気がするんだけど、理解できてないのも負けな気もする。購入した時点で色々負けてるんだけれど。
読了日:05月22日 著者:円城 塔
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11283888
■リューシカ・リューシカ(2) (ガンガンコミックスONLINE)
優しくなれる
読了日:05月21日 著者:安倍 吉俊
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11274337
■砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
桜庭一樹の読書日記を読んでから著者の事を気にし始め、タイトルで購入を決め1時間程で読み上げました。藻屑が打つ弾丸はなぎさという海にずっと溶けて溶けて溶けて一緒になって行く感じがします。なぎさには可哀想なのかもしれないけれど、なぎさにしか出来なかった事なのかもしれない。
読了日:05月20日 著者:桜庭 一樹
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11252587
■背徳のメス 改版 (新潮文庫 く 5-3)
読了日:05月20日 著者:黒岩 重吾
http://book.akahoshitakuya.com/b/4101148031
■僕らの変拍子 (バーズコミックス)
読了日:05月19日 著者:冬目 景
http://book.akahoshitakuya.com/b/4344800273
■ZERO (バーズコミックス)
読了日:05月19日 著者:冬目 景
http://book.akahoshitakuya.com/b/4344800281
■ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)
読み始めて「思ってたのと違う」と感じ、そこからずるずるもっと「思ってたのと違う」に至り、後半はもう訳がわからず理解が歩んでいかないんだけれど、最後の最後で次に進む意欲をくれる。ちょっとこれ凄い。
読了日:05月19日 著者:舞城 王太郎
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11232772
■百瀬、こっちを向いて。
あまり恋愛小説を読まない質なのですが、装丁と少し切ないタイトルに惹かれ購入。波長が何処も一定で急展開という展開が無いのが好みです。人が死ねば人が病気になれば泣けるストーリーはまっぴらなので。久々に穏やかに読める本でした。読みやすかった。
読了日:05月18日 著者:中田 永一
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11215846
■セックスボランティア (新潮文庫)
読了日:05月12日 著者:河合 香織
http://book.akahoshitakuya.com/b/4101297517
■限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-1)
読了日:05月12日 著者:村上 龍
http://book.akahoshitakuya.com/b/4061315315
■老いのたわごと (1973年) (体験の仏教〈1〉)
読了日:05月11日 著者:岡村 さく
http://book.akahoshitakuya.com/b/B000J91H4U
■ポルノ惑星のサルモネラ人間―自選グロテスク傑作集 (新潮文庫)
読了日:05月10日 著者:筒井 康隆
http://book.akahoshitakuya.com/b/4101171475
■夜のミッキーマウス
読了日:05月08日 著者:谷川 俊太郎
http://book.akahoshitakuya.com/b/4104018031
■桜庭一樹読書日記―少年になり、本を買うのだ。
読了日:05月07日 著者:桜庭 一樹
http://book.akahoshitakuya.com/b/4488023959
■ピコーン! (IKKI COMICS)
読了日:05月07日 著者:舞城 王太郎,青山 景
http://book.akahoshitakuya.com/b/4091883567
■リアル鬼ごっこ (バーズコミックス・スペシャル)
ギャグマンガ
読了日:05月06日 著者:山田 悠介,杉山 敏
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/11009123
■心の悲しみ
読了日:05月05日 著者:西岡兄妹
http://book.akahoshitakuya.com/b/4883790991
■アシュラ (下) (幻冬舎文庫 (し-20-3))
読了日:05月05日 著者:ジョージ秋山
http://book.akahoshitakuya.com/b/4344407547
■アシュラ (上) (幻冬舎文庫 (し-20-2))
読了日:05月05日 著者:ジョージ秋山
http://book.akahoshitakuya.com/b/4344407539
■シスタージェネレーター 沙村広明短編集 (アフタヌーンKC)
読了日:05月05日 著者:沙村 広明
http://book.akahoshitakuya.com/b/4063145980
■乱漫 (KCデラックス)
読了日:05月05日 著者:加藤 伸吉
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■謎の彼女X(1) (アフタヌーンKC)
読了日:05月01日 著者:植芝 理一
http://book.akahoshitakuya.com/b/4063144240
■惡の華(1) (少年マガジンKC)
読了日:05月01日 著者:押見 修造
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■他人事 (集英社文庫)
読了日:05月01日 著者:平山 夢明
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風花
著者:川上弘美
発行者:加藤潤
発行所:株式会社 集英社
2011年4月25日第一刷発行
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今夜こそ今夜こそって、ほんとうに、今夜こそ、だからね。
のゆりは自分のその決心を忘れないために、食卓の横に置いた買い物用のメモ帳から、一枚紙をやぶりとり、青いボールペンで、
「話す。きっと」
と、書いた。それから少し考え、
「きっと」の文字に二本の横線を引いた。かなり、
「ぜったい」と書き直す。
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昔一度だけ川上弘美を読んだ事があるのですが、どんな話を書く方なのかを忘れてしまったので新作が出た今読んでみようと決意し購入。
主人公の「のゆり」は夫「卓哉」の浮気に悩まされる。毎日帰ってこない、浮気相手からのメールが頻繁だ…等という浮気ではなく、言い得て妙であるが「穏やかな浮気」であるから気持ちの振り分けが上手くいかない。「穏やか」だからという理由もあるが、のゆり自身の気持ちの弱さもあるのだろう。きつく言える性格でも無く、裁判をけしかけるというものでもない。「別れる」か「別れない」かの気持ちがふわふわとあり、その前に「自分がどうしたいか」に悩まされゆるりとした、しかし葛藤が続く日々を送っていく。
所謂「主人公が成長していく」ストーリーなのかもしれないが、私には「自暴自棄」に近しいものがあった。将来が不安で、自分が何も武器を持っていない事がネックとなる気持ちは痛い程わかるのだけれど、ゆるゆるとしたのゆりの気持ちは「共感」と共に「苛立ち」を覚えさせられる読者が殆どじゃないのだろうか、と、思う。
もっと強く大地を踏みしめられる時もあっただろう。そんなに時間は有さなくてもよかっただろうし、自身が浮気に揺らがない気持ちがそんなに強いのに、あべこべな部分が多々見えて私の中では不満が色々と募る作品であった。
読みやすさは抜群であると言える。描写もわかりやすい。のゆりの心境を表す為の句読点の多さがやや気になる所。
恋愛小説でドロドロでもなく甘甘でもない分にはいいんじゃないんでしょうか。
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/04/20
- メディア: 文庫
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