チルドレン

 著者:伊坂幸太郎
 発行者:鈴木哲
 発行所:株式会社 講談社
 2007年5月15日第一刷発行

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 そこで、ただ一人口を開いたのが、それまで興味がなさそうに食事をしていた、陣内さんだった。「昨日のテレビで何をやっていたか、知らねぇけどさ」と面倒臭そうに前置きをしてから、「少年ってのは一種類じゃないっつうの」と言った。
 「何だよてめえ」中年男が喚いた。なかなか、迫力のある声だった。「しょせん、非行に走った奴はどうにもなんねえんだよ」と声を荒らげた。
 「うるせえなあ」と陣内さんはさらに億劫そうに、耳を掻く。「あのさ、映画評論家が年間、どれくらい映画を観るか知ってるか?」
 何を唐突に言うのだ、と男たちは鼻白んでいたが、首をひねると、「そりゃ、何百本も観てるんじゃないか」と言った。
 「その評論家にだ、テレビの洋画劇場しか観たことのない素人親爺が、『映画とはしょせん』と語ったら、どうだよ?ひどく間が抜けていると思わないか。あんんたたちが今、喋ってるのはそれと同じだよ。俺たちは何百人っていう少年に会うんだぜ。分かるか?あんたたちは今、専門家に講釈を垂れているんだ。こいつは、かなり、恥ずかしい。だろ?」

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 「バンク」
 「チルドレン」
 「レトリーバー」
 「チルドレンⅡ」
 「イン」

 初伊坂幸太郎。「重力ピエロ」や「グラスホッパー」、「オーデュボンの祈り」等は有名なのできっと知らない人の方が少ない筈。書店でも平積みされていたりと、気にはなっていたのですが天邪鬼が発動。『有名な作品や数多く愛されている作品は"当たり障りの無い"ものが多い』という持論をいつか打破出来ればいいのですがそうもいかず…。なので上記した作品を買わなかった訳です。基本的に短篇集大好きだというのもあるので「チルドレン」を購入。

 そしてまず読み始めるのに時間がかかるかかる…。ガチガチのSFにはまっているのでまったりとしたものはきっと物足りないだろうなという感覚が真っ先に。それでも意を決して!!

 流石というか何というか物凄く読みやすい。そして綺麗。短篇集という名前は上げているが主要人物は変わらない。その主要人物のインパクトが凄く強い。熱血はうざいけれど、熱血というような感じでもない。どちらかというと粗野に近い感じ。だけど、そうでもない。こう…何か清々しい感じなのだ。其れが抜粋部分には色濃く出ている気がする。

 大体が"日常"に浮かぶ"非日常"のお話。当たり前だ。ただだらだらと日常を記すなら誰でも出来る。けれど、"非日常"的な事をナチュラルに"日常"だと感じさせる事は簡単な事では無い。著者はこういう所に物凄く長けているのではないかというそんな感じ。

 時間軸がバラバラだけれど、後から出てくる発見もあって面白い。何といっても「陣内」のキャラクターの強さはピカイチで熱いものが感じられる。本当はこういうキャラが出てくる小説は好きじゃないんだけれど、憎めない。なんとなく。嫌いじゃない。


チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)