風花

 著者:川上弘美
 発行者:加藤潤
 発行所:株式会社 集英社
 2011年4月25日第一刷発行

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 今夜こそ今夜こそって、ほんとうに、今夜こそ、だからね。
 のゆりは自分のその決心を忘れないために、食卓の横に置いた買い物用のメモ帳から、一枚紙をやぶりとり、青いボールペンで、
 「話す。きっと」
 と、書いた。それから少し考え、
 「きっと」の文字に二本の横線を引いた。かなり、
 「ぜったい」と書き直す。

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 昔一度だけ川上弘美を読んだ事があるのですが、どんな話を書く方なのかを忘れてしまったので新作が出た今読んでみようと決意し購入。

 主人公の「のゆり」は夫「卓哉」の浮気に悩まされる。毎日帰ってこない、浮気相手からのメールが頻繁だ…等という浮気ではなく、言い得て妙であるが「穏やかな浮気」であるから気持ちの振り分けが上手くいかない。「穏やか」だからという理由もあるが、のゆり自身の気持ちの弱さもあるのだろう。きつく言える性格でも無く、裁判をけしかけるというものでもない。「別れる」か「別れない」かの気持ちがふわふわとあり、その前に「自分がどうしたいか」に悩まされゆるりとした、しかし葛藤が続く日々を送っていく。

 所謂「主人公が成長していく」ストーリーなのかもしれないが、私には「自暴自棄」に近しいものがあった。将来が不安で、自分が何も武器を持っていない事がネックとなる気持ちは痛い程わかるのだけれど、ゆるゆるとしたのゆりの気持ちは「共感」と共に「苛立ち」を覚えさせられる読者が殆どじゃないのだろうか、と、思う。
 もっと強く大地を踏みしめられる時もあっただろう。そんなに時間は有さなくてもよかっただろうし、自身が浮気に揺らがない気持ちがそんなに強いのに、あべこべな部分が多々見えて私の中では不満が色々と募る作品であった。

 読みやすさは抜群であると言える。描写もわかりやすい。のゆりの心境を表す為の句読点の多さがやや気になる所。

 恋愛小説でドロドロでもなく甘甘でもない分にはいいんじゃないんでしょうか。


風花 (集英社文庫)

風花 (集英社文庫)