シュレディンガーのチョコパフェ

 著者:山本弘
 発行者:早川浩
 発行所:株式会社 早川書房
 2008年1月15日発行

  • -

 僕は地面に大の字に横たわり、歓喜の余韻に酔っていた。泣いていた。愛する男に抱かれた少女のように。疲れ果ててはいたが、満足だった。実際、異質な詩に脳の中を蹂躙される感覚は、性行為に似たものがあった。プライドという衣服をずたずたにされ、裸の魂を抱き締められ、自意識の核を言葉のペニスで貫かれるのだ。その倒錯した歓びは、本物のセックスなど比較にならない超越的な体験だった。
 もっと知りたい。
 「一日にひとつだ。」
 お願いだ。もっと聞かせて。
 「まず回復しろ。今の君では、次の戦いに勝てない」
 死んでもかまわない。
 「私は死ぬために教えるのではない」

 「メデューサの呪文」より抜粋

  • -

 「シュレディンガーのチョコパフェ」
 「奥歯のスイッチを入れろ」
 「バイオシップ・ハンター」
 「メデューサの呪文」
 「まだ見ぬ冬の悲しみも」
 「七パーセントのテンムー」
 「闇からの衝動」

 5日振りの読了。4日程まともに本を読んでいませんでした…。(とは言っても1日最低30頁は読んでいましたけれどね(そんなの読んだ内に入りません!))本を読む習慣っておそろしいですね。最近は 仕事→帰宅→読書→少しの睡眠 のコンボを決めていたんですが、其れが寸分狂うと読む気が失せてしまう…。まるで食事を摂るタイミングを失ったかのように。と、いうような事を感じるという事は、自分の生活リズムの中に「読書」が確実に組み込まれ初めているという事なのかもしれません。ちょっと嬉しいですが、簡単に其れが抜けてしまうのはやはり生活に置いて"絶対必要"という訳では無いからなのでしょうね。(当たり前ですが)"絶対必要"になった時点で生活が危ぶまれたりしそうなので(本気で没頭してしまいそう)コレ位が調度良いのかもしれません。

 2月に購入、4月に読み始め、5月の末に読み終わるなんて結構時間が開いてしまいました。よくよく考えると、2月や4月はまだSFにガッツリはまり込んでいなかったので、SFの世界に陶酔しにくかったのかもしれません。そういう場合は一度本から離れる事がいい事なんだな、と、「後藤さんのこと」を読んだ時にも感じました。実際4月半ばに表題作を読んだきり放置だったのですが、慣れてきたんでしょうね。今日頁を捲って合計3時間で他すべて読みきる事が出来ました。ほんと読書って慣れですね。

 上記したように本作はSFの塊です。読んでいてて違和感を少しだけ感じ、あとがきや解説を読んだ後に其の違和感の正体が"オマージュ"だという事に気付きました。私の中で一番わかり易いのが「奥歯のスイッチを入れろ」がそれ。「奥歯のスイッチ」+「加速装置」=「009」。そして気付いてしまった…私…オマージュ苦手だわ。
 やはり何処までも原作だとかそういう所と"比べてしまう"のはオマージュを読む時にしてはいけないと思うんです。自分の中で。逆に、思い出して、エッセンスにして楽しむのが一番いいんでしょうけれど、其れが中々上手に出来ない事が判明。作品自体はとても楽しく読ませてもらいましたが、少しモヤモヤ。

 本作の中で面白かったのが「メデューサの呪文」と「七パーセントのテンムー」でした。
 「メデューサの呪文」はもう凄く私の好み。簡単に言うと「言葉で人を壊す」というもの。こういう設定大好きです。
 「七パーセントのテンムー」は恋愛小説のような感じ。本作の中で一番読みやすいんじゃないだろうか、と思います。

 短篇集を読むに当たって大事な物は、物語の順番だと思っています。「NOVA 2」の時に其れを酷く感じたのですが、掲載の順番によって読書意欲を削がれるというのは物凄く解せない事だと思っています。短篇集は言わば料理です。調味料の分量は合っているのに、入れる順番を間違えるだけで全てが台無しになってしまう。本作は後半につれて面白さが増していくので読み終わった後に安心感はありましたね。

 オマージュが好きな方ならこれを。でもオススメするなら「アイの物語」ですかね。短篇集のような短編集でないお話の塊。「詩音が来た日」は傑作でした。是非読んでいただきたい。

 少し山本弘熱がだらけてしまいそうなのですが、「去年はいい年になるだろう」も読みたいので、だらけるのは読んでから考えようと思います。

 私が読んだのは文庫版なのですが、読み終わった後は表紙をじっくり見る事をお勧めします。物語に出てきた様々な物が描かれているので見つけるのは楽しいかも。


シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

去年はいい年になるだろう

去年はいい年になるだろう