NOVA 2
著者:神林長平/小路幸也/法月綸太郎/倉田タカシ/恩田陸/田辺青蛙/曽根圭介/東浩紀/新城カズマ/津原泰水/宮部みゆき/西崎憲
責任編集:大森望
発行者:若林繁男
発行所:株式会社 河出書房新社
2010年7月20日第一刷発行
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6月某日
チンドン屋、というのは古くからある大道芸だそうだ。
今日、図書館からの帰りに仙台坂を下りていたら、にぎやかに笛や太鼓を鳴らしながら坂を上ってくる一団に出会った。
先頭を行く男は、このあいだの歌舞伎に出てきた衣装に似たものを着け、身体の前に太鼓を抱えてどんどん打ち鳴らしている。日本髪の女性もいる。白塗りの化粧、ピエロのような笑みを浮かべた裂けた唇。ボブ・カットの子供もいたし、大きな猫もいたように思う。
私と同様、他の通行人もあっけに取られた顔でその一団を眺めていた。「本日 新装開店」というタスキを掛けている。
奇妙な節回しで、やけに明るい歌を歌っている。歌詞はよく聞き取れなかったが、途中で何度も声をそろえて繰り返す「サビ」だけは聞き取れた。
「励ましたい 励ましたい 東京励ましたい
励ましたい 励ましたい 日本励ましたい」
そのフレーズだけがやけに頭に残る。
数えてみると8人(猫を含めて)だったが、彼らはゆったりと坂を上ってゆき、交差点を曲がって見えなくなった。
「東京の日記/恩田陸」より抜粋。
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「かくも無数の悲鳴/神林長平」
「レンズマンの子供/小路幸也」
「バベルの牢獄/法月綸太郎」
「夕暮にゆうくりなき声満ちて風/倉田タカシ」
「東京の日記/恩田陸」
「てのひら宇宙譚/田辺青蛙」
「衝突/曽根圭介」
「クリュセの魚/東浩紀」
「マトリカレント/新城カズマ」
「五色の舟/津原泰水」
「聖痕/宮部みゆき」
「行列(プロセッション)/西崎憲」
書きおろしSF短篇集。著者も豪華なら内容も豪華で大変満足させていただきました。SF成分が最近足りていなかったのですが、吸収しすぎた感。
まず読み終わった後は「順番最高」って言う事。この順番だから最後まで私は楽しめたかもしれない。責任編集社の大森さんGJ。
内容としては、読んだ事の無い作家さんばかり。唯一宮部みゆきだけは若い頃に「火車」と「龍は眠る」を読んだ事がある位で他の方の作品は触れた事すらありませんでしたし、存じあげない方もちらほら。SF界で有名な方がいらっしゃるのですが何せSF初心者マークをおでこに貼ってる状態で本を読んでる身分なのでまだまだ知らない事だらけ。けれど、こういう短篇集は嬉しい。長編を読むのって結構骨が折れるし、途中が面白く無いとダレてしまう、最後に面白くなる筈!と、タカをくくって我慢して読んで最後に尻つぼみなら、もう一日が灰色に見える程凹んでしまう。その点、短篇(と言っても100頁位あるものも入っているのだが)はとっても親切。試し読みのような気持ちになる。が、内容は(当たり前だが)決して試し読みなんかのレベルで収まるようなものではない。
本書の中でマイベストを唱えるならば「クリュセの魚/東浩紀」だろう。きっと著者の文章が私の肌にとても合ってる上に話が柔らかくて面白い。SFとしてはとてもイメージしやすいものでアニメ化されたら凄く綺麗な映像になるんだろうなぁというそういう印象。
個々の感想を書きたいのだけれど、これは是非読んでいただきたいと思う本なのであまり長々とは書きたくなかったりする。SFが苦手な人は読みやすい物もあるので訳が分からない物はもう飛ばしてもいいんじゃないかと思ったりもするのだが、上記したようにこの本の掲載してる順序バランスは完璧だと思うので是非抜粋しないで読んでいただきたい。
読みやすさで言えば「レンズマンの子供/小路幸也」は児童文学にも近しい読みやすさで、短さで言えば「てのひら宇宙譚/田辺青蛙」が一番だ。田辺青蛙の文章は初めて読んだけれどこの人の本を読んでみたいとグンと思える作品だったので凄いと思う。あの短さでだ。相性もあるのだろうけれど。
読むのをやめてしまおうかと思ったのが「夕暮れにゆうくりなき声満ちて風/倉田タカシ」である。もうこれは買って読んでいただくしかないだろう。そして悩んでいただきたい。説明にも書いてある通り、部屋でゆっくりとした気分で読んでほしい。決して電車やバスや公共の場、人の多い場所では開かれないようご注意を。
「かくも無数の悲鳴/神林長平」はとにかく凄い。著者の神林さんはSFの巨匠と呼ばれているらしい。其の理由が本作でもよくわかる。これだけの作品をほぼイッキ読みしてしまうと最初の方の作品を忘れてしまいがちなのだがしっかりと脳裏に刻まれている。しょっぱなから「ガチSF」で初心者マークの私は少し眉を潜めてしまったがそんな事は一瞬だった。「バベルの牢獄/法月綸太郎」も驚愕だった。ラストシーンは最高。声が出て拍手をしたくなる程の作品だと思う。
後、今!今読まなければいつ読むんだ!今これを読まないと1年後になったら後悔するぞ!今現在でも「少し遅かったな…」と思った位な作品が「東京の日記/恩田陸」である。とにかく読んで欲しい。あの大きな傷痕を忘れてしまう前に、是非、是非!
とにかく!感想は述べたくない位の出来だったと私は思う。「聖痕/宮部みゆき」は結構長い作品だが、流石宮部みゆきという所だろう。読みやすさと話の滑らかさは抜群である。読むのを止めるよりも読み終わる方が早かった気がする。
そして最後の「行列(プロセッション)/西崎憲」は、作品をきちんと全部読んでからゆっくりと読む事をおすすめする。ちなみに私は朗読して読んでしまいました…。結構こういう語感が好きで、好きな語感は朗読したくなる。
結構「あーこの本頭に入ってこないなぁ」と思う場合は、めんどくさいかもしれないが携帯やPCの録音機能だとかを使って朗読録音をし、聞いてみると結構すんなり内容が入ってきたりするので理解出来ない内容が出てきた場合はオススメである。但し時間がかかる上に無闇矢鱈と読めばいいってもんでもないので暇な人専用。私はそれで本作の「衝突/曽根圭介」と「マリカトレント/新城カズマ」の冒頭部分を理解していたりした。(但し携帯に残す場合はバレると恥ずかしいので理解したらすぐ消す事をおすすめする。)
読んでよかった。ガチSFの嵐だったけれど大満足。この後の本がかすれてしまうんじゃないかという不安で次に手を伸ばす本を現在決めあぐねている状況だったり。いい本に出逢うとこういう所苦労しますね。
まだ「NOVA」の方には手を触れていないので近々手に入れてSF成分が足りない時に補おうと思います。大好きな飛浩隆先生の作品も入っている「NOVA」が楽しみで今からもうワクワクしてます。子供みたいになれるから本ってやめられない。