西の魔女が死んだ

著者:梨木香歩
発行者:佐藤隆
発行所:株式会社 新潮社
2001年8月1日 第一刷発行

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 「わたし、やっぱり弱かったと思う。一匹狼で突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか・・・・・・」
 「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、誰がシロクマを責めますあか」
 これは説得力があった。でも、まいも負けてはいなかった。もうまいはほとんどおばあちゃんに遠慮することはなくなっていた。
 「おばあちゃんはいつもわたしに自分で決めろって言うけれど、わたし、何だかいつもおばあちゃんの思う方向にうまく誘導されているような気がする」
 おばあちゃんは目を丸くしてあらぬ方向を見つめ、とぼけた顔をした。

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 映画にもなったし凄く話題になった本なので知ってる人も多いだろうと思う。
 優しい本だ。とても優しい。否定する所が無いという感じで優しい。これは「百瀬、こっちを向いて。 - 55book」と同じように私にとって"箸休め本"になるのだろうけれど、小説というより自分への戒めの方が強いんじゃないかと感じる本。そう考えると「老いのたわごと - 55book」にも近しい部分があるかもしれない。

 ただ「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない - 55book」と同じように、読む時期を間違えてはいけない本なのだなぁと強く感じる作品(そんな事は読む前からわかっていたのでもうこれは仕方がない)である。文章としても読みやすく、難しい漢字もそれ程ない。雰囲気で言えば「森ガール特集」みたいな感じで想像してもらえればなんとなくはっきりするんじゃないのだろうか。そう、現実的な夢現なのだ。

 小さな頃、もっとこれから少女として成長していく段階で読めば間違い無く平山夢明等を読む成人に成長しないだろうと思われる本だ。其れ位の差がある。
 この歳になると、ここまで絶賛される本を読むと「嗚呼、こういう所がいいのだな。」だとか色々といい所の粗探しをしてしまうのが悪い所。…と、いうかそういう事をする私がきっと嫌らしい成人に育ったに違いない。それはそれでとても結構な事なのだろうけれど。
 絶賛される本というものは、否定しづらい本だと少なからず思っている。私はこの本をそう解釈したし、当たり障りなくオススメ出来るだろう。

 …きっと本の感想を書く時は私自身も真っ白な1頁として頑張らなければならないのだろうけれど、そこら辺が上手くいかない時点でまだまだなんだろうな。

 とにかく、私は歳を取り過ぎたし知識を得過ぎたし面白い物を知り過ぎた。そういう面からいうとこの本は「物足りない」。ラスト3頁にウルッとはしたが、其れは人の死という、自分が体感してきたであろうものがこみ上げたようなそんな感じがする、と、感じただけで凄くもう弄(ひねく)れてて恥ずかしいです…。

 本を読む時、感情移入が激しい人にはいいんじゃないんでしょうか。


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)