ポルノ惑星のサルモネラ人間―自選グロテスク傑作集

著者:筒井康隆
発行者:佐藤隆
発行所:株式会社 新潮社
2005年8月1日第一刷発行

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 歩くとき、歩こうとする意志は自らをある特定の場所へ移動させたいという意志に反する為、これを肉体的負担と感じることが多い。逆に、歩きたいという意志のみによって歩くときは、目的地たる特定の場所を持たぬ為、これを故意に捏造し精神的負担を軽減させる。歩行に伴うこのような二律背反性によって、あるくという行為の遂行には複雑な肉体的、精神的作業が必要である。

「歩くとき」より抜粋

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「ポルノ惑星のサルモネラ人間」
「妻四態」
「歩くとき」
「座右の駅」
「イチゴの日」
「偽魔王」
「カンチョレ族の反映」

 この7作品が詰まった一冊読了。筒井康隆の作品に触れるのは初めてです。「時をかける少女」が有名で、アニメや原作を見たり読んだりした事があるという人は結構いらっしゃるのではないでしょうか?私はと言いますと、恥ずかしながらテレビで放送されるまでその存在も知らず、仕事の関係で放送時間家に居ないという悪運が重なり見た事が無いのです。

 「アニメを見れなかったのなら原作を読めばいいじゃないの!」ともお思いでしょうが、残念ながらそこまで「ああああああ読みたい…読ませて下さい…」と、まではいかなかったし、当時はSFも未開拓、ましてやジュブナイルなんてあんまり読まなかったので触手が動かなかったです。はい。

 きっとタイトルから察しても「時をかける少女」と「ポルノ惑星のサルモネラ人間」とはかなりの違いがあるでしょう。きっと、私は、今回読んだ本の方が「好きだ!」って言ってしまいそうですが、未読である以上どうとも言えませんね。

 筒井先生は関西ローカルのお笑い番組に出演していらっしゃるのですが、拝見する度に「賢い方だなぁ」だとか、文字を書かれる度に「綺麗な文字を書かれるなぁ」等と言う所ばかりを見ていたりしていました。先生本人自身もとても面白い方でいらっしゃるので、読まない選択はそこで消えていましたね。

 話を戻しましょう。

 短篇集という事でとても読みやすかったです。ただ単に爆笑出来る面白さとしては「妻四態」が群を抜いて面白かったですね。引用で書きたかったのですが、コレは何も知らずに読むととても面白い本だと思います。それ以前にとても短いですしね。

 「グロテスク傑作集」という割には「グロテスク」な表現は全体の約15%程しかなかったのでは無いかと思っています。これは私が単に「グロテスク」に慣れているからでは無いと信じたい。ただ、人間の深層心理面を考えると、非常にややこしく、どす黒いというよりも混乱が混ざった物が多かったように思います。正直、全ての物語がきちんとした「物語になっている」とは感じられませんでした。これは先生のユーモアなのでしょうか?

 発想として素晴らしいのは「イチゴの日」。まさか落ちをこう持ってくるとは思っていませんでしたが、納得して少し笑ってしまいました。(納得した内容に。)どちらかといえば結果は「グロテスク」なのですが、内容が内容なだけに笑ってしまいましたね。

 今回の抜粋は「歩くとき」なのですが、読み始めた瞬間に筒井先生のユーモアさや頭の回転の速さが目に見えて驚いて一度本を閉じ「おお」と言ってしまいました。周りから見たらとても変な人ですね。(笑)難しい言葉が沢山羅列されておりますが、それだけで「賢い」などとは申しません。少しだけ読みにくいですが、私は大好きです。

 とにかく読みやすさがありましたし、ユーモアが群を抜いていたかと。他の筒井先生がどんな文章を書かれるのかが楽しみでなりません。顔の表情がコロコロ変わるように、色々なモノが見れて楽しかった。


ポルノ惑星のサルモネラ人間―自選グロテスク傑作集 (新潮文庫)

ポルノ惑星のサルモネラ人間―自選グロテスク傑作集 (新潮文庫)