夜のミッキー・マウス

著者:谷川俊太郎
発行者:佐藤隆
発行所:株式会社 新潮社
2003年9月1日第一刷発行

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「ひとつまみの塩」

買っておけばよかったと思う物は多くはない
もっと話したかったと思う人は五本の指に足らない
味わい損ねたんじゃないかと思うものはひとつだけ
それは美食に渇きつつ気おくれするこのぼく自身の人生

アイスド・スフレのように呑み下したあの恋は
ほんとうはブイヤベースだったのではないのか
クネルのように噛みしめるべきだったあの裏切りを
ぼくはリンツァー・トルテのように消化してしまったのか

気づかずに他のいのちを貪るぼくのいのち
魂はその罪深さにすら涎を垂らす
とれたての果実を喜ぶ舌は腐りかけた内蔵を拒まない
甘さにも苦さにも殺さぬほどの毒がひそんでいる

レシピはとっくの昔に書かれているのだ
天国と地獄を股にかける料理人の手で
だがひとつまみの塩は今ぼくの手にあって
鍋の上でその手はためらい・・・・・・そして思い切る

レシピの楽譜を演奏するのは自分しかいないのだから
理解を超えたものは味わうしかないのだから

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 久しぶりに谷川俊太郎さんの詩を読みました。小さい頃から家には絵本や詩や様々な本がずらりと並び(それは今でも変わらないのですが)、今思えば宝物の宝庫ですね。(川端康成の直筆コピーですが。そういうもの有ります。結構高い筈。そしてでかい。原稿用紙だから。) そんな中で谷川俊太郎さんは特別”読みやすく、受け入れやすい”存在でした。

 表題の「夜のミッキー・マウス」は、しりあがり寿さんの解説を読んでからの方が面白さを増す気がします。(後、言い訳では無いけれど、私はディズニーがそんなに好きではない。)

 とにかく潤った。

 子供であり、大人であり、エロチシズムがあり、それもまたセクシーであり、優しくもあり、そして悲しい。谷川俊太郎さん大好きです。

 ただ、近年の絵本とかは本当にカオスで訳分からなくて怖いです。まじで。一度本屋で目を通すといいかもしれない。びびる。


夜のミッキーマウス

夜のミッキーマウス