砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

著者:桜庭一樹
発行者:井上伸一郎
発行所:株式会社 角川書店
2004年11月 富士見ミステリー文庫より 第一刷発行

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 「ぼくは」
 「・・・・・・ぼく?」
 映子だけじゃなくみんなが小声で聞き返した。それから転校生の体をじろじろと見た。制服の胸がふわんとかわいらしく盛り上がっていた。標準より少し短めのスカートから、青白い細い足が伸びていた。女子だ。
 「ぼくはですね」
 藻屑が断固とした口調で言った。
 「ぼくはですね、人魚なんです。」

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 人生二度目の桜庭一樹である。一度目は桜庭一樹読書日記-少年になり、本を買うのだ。-(http://d.hatena.ne.jp/g_55cha/20110507/1304780582)である。エッセイだったけれど十分な程の読書意欲を貰い、尚且つ楽しませてもらったのでいずれ著者の作品は読みたいと思っていました。が、一度目に読んだ本のせいで積ん読が人生初な位、溜まりに溜まって身動きが取れない状態だったので少し諦め、母と本屋に赴いた時ふと目に止まり購入を決意。溜まりに溜まっているならもう何冊増えても一緒じゃないかというよくわからない"やったれ!"という気持ちが強かったのかもしれないです。それに、本作は解説を含め200頁程しか無く、ジャンルは"ライトノベル"というではありませんか。俗にいう"ラノベ"は基本的に苦手ジャンル(偏見ですが表紙や文章の途中にアニメ絵等があるような物がライトノベルだと思っていました…。そういうのとても苦手なんです。)なので「読めるのかなぁ…」という気持ちは少しあったり。後は桜庭一樹の著書を読んだ友人が「自分が読んだ本はあまり面白くなかったです…」と言っていたのを思い出したりして買った後もすぐには手を付けず多少放置状態。恥ずかしながら著者が直木賞作家だった事も知らない程の無頓着ぶりが私にあったりと、もう本当に勉強不足で顔から火が出そう。賞を取るからには、やはり評価される素晴らしい文章なんだと頭では理解しているのですが、性格的に天邪鬼だったりするもので有名所には疎いのです。こういう事を言ってしまうのも恥ずかしいですね。もっと勉強しなければ…。

 さて、本書ですが冒頭で主要人物が死ぬ事が確定されています。いきなりズドンと撃ちぬかれるそういう感じ。その事実を踏まえて読めよという強迫観念(というのは言い過ぎですが…)…嫌いでは無いです。英語を訳すように読んでいく本は嫌いじゃありません。最後の最後でどんでん返しが好き!っていう人は嫌なんでしょうね。アニメでもネタバレされると怒る人種だと思います。ちなみに私は全然怒りません。聞いた後の物を、目で見て脳で咀嚼するのもたまには乙な物だと思うのですがね。

 キーワードは「実弾」と「砂糖菓子の弾丸」です。こういう話はネタバレしちゃうので凄く感想が書きにくいですね。文章能力の無さをいつでも痛感します。

 この話には暴力があります。拳で殴る暴力と、心を煙草の火で押し付ける暴力の二つが折り重なって痛々しいというのを通り越し、テレビでニュースを見ている感覚に少し陥るのではないでしょうか?主要人物の「藻屑」は有名歌手の父親と女優の母親との間に産まれた子。やはりダイヤからはダイヤの原石が産まれるのだろう、藻屑自身とても美しい顔立ちだった、が、変わっていた。人魚なのだという。
 泡になるだとか、天気予報にない大嵐が来るだとか、うさぎは人魚の天敵だとか、そういう事を主人公の「なぎさ」に懐いて延々と話す。空気の読めない馬鹿な子な藻屑。そこには沢山の悲しい理由が散りばめられてて、その悲しい理由ですら藻屑のアイデンティティなのだ。それが無いと行きていけない。それで今まで構成されてきた。だけど、藻屑は打ち続けるのだ。どうにもならない"砂糖菓子の弾丸"を。誰も傷付ける事が出来ない、誰も理解する事が出来ないソレを藻屑は延々と打ち続ける。親に、皆に、そして、なぎさに。
 そして其れは確実になぎさの体に埋めこまれ、少しずつ浸透していく。藻屑が"人魚"ならば、なぎさは"海"だった筈だ。
 悲しい味しかしない海を見つけた藻屑は、甘い海になっていく友達に最後何を思ったのだろう。

 もっと若い頃に読めればよかったと思う作品。もっともっと感じられる年齢で。今の私の年齢では"担任教師"の目線位でしか見れないのが悔しい所。きっと涙をぽろぽろと零して読んでいただろうし、胸がもっと痛かっただろう。砂糖菓子の弾丸に侵食されていくのは私だったかもしれない。

 読みやすさでも群を抜く程のものだった。そのかわり、冒頭の悲しさを引き連れてなので本気で泣きたいという人にはオススメ出来るだろうか…。いささか不安である。

 何処もかしこも闘いなのだ。終わらない闘い。そこでの武器を手にして、負ける闘いもある。

 何処もかしこも戦争なのだ。

 生き残った私たちはこれから何と闘うのか。だから、そういう疑問を若い時に。と、無限ループになりそうだ。