他人事
著者:平山夢明
発行者:加藤潤
発行所:株式会社 集英社
2010年8月25日第一刷発行
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ヒュッと涼子が息を飲むのが聞こえた。「ああ、どうしよう・・・・・・亜美と言います。声をかけてやってくれませんか?意識はありますか?あみ!」
『さぁ・・・・・・どうだろう』天気を訊ねられたような暢気な声が返ってきた。『よくわからないな・・・・・・俺は医者じゃないから・・・・・・』
「お願い!!声をかけるだけでいいの。手を取って安心させてあげて。お願い!!」涼子が取り縋るように言った。
『触るのは、どうかな。案外、汚れそうだ。その・・・・・・正直、気持ちが悪いよ』
「そんな・・・・・・。それなら、おかあさんはすぐ傍にいるから大丈夫だと言ってよ。ママもおじさんも元気だって・・・・・・」
『それはどうだろう?あんた血だらけじゃないか。それほど元気そうに見えないよ』
「嘘でいいの。勇気づけるの」
私も口を挟んだ。
「すぐに病院へ連れて行くから、大丈夫だと、安心するように言ってくれないかな」
『あんたらは死にかけた子供に嘘をつけというのか』
「他人事」より抜粋
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平山夢明の短篇集「他人事」読了。
全322頁(解説を省)の薄い本に14本もの小説が書かれている。そして、全てに当てはまる言葉が「理不尽」である。
この理不尽さは「いま、殺りにいきます」を読んだ事があるのなら納得して読める理不尽さである。その理不尽さを埋めながら読みたいのであれば先に「いま、殺りにいきます」を読む事をオススメしよう。だが、その理不尽さが更なる恐怖を産むという事も敢えて書いておく。
先に「いま、殺りにいきます」の説明をすると、実話恐怖集である。そんじょそこらの作られた怖さよりも背筋が凍る、本を読む力を無くす。実話というものは恐ろしいものだと本気で思った。「異常快楽殺人」も実在した殺人鬼達の事を記しているのだが、外国の事が多すぎていまいち自分に当てはめる事が出来ず”ピン”とこない。が、「いま、殺りにいきます」は本気で怖い。『マンションで一人暮らしをして、普通の日常を過ごしている筈が、何者かが部屋に侵入しており理不尽に住人の腕や足を折り内蔵を破裂させ逃亡する』等がある。実際起こりえないだろう。下着泥棒ですら経験した人は自身の周りに少ないのに、人が侵入していて自分の身体を破損して出て行くなどという事があってたまるか。
だが、その話のオンパレードなのだ。実は、私も半分程しか読んでいない。読んでるうちに吐き気がしたり背中が怖くて夜道が歩けないという気分になったからだ。夏に肝試し程度の気持ちで読んだりするのにはいいかもしれない。保証はしないけれど。
そういう理不尽さがある短篇集である。14本あるが、内容が深いものもあれば、実際「え、これどういう意味?」という話もある。そして、全部怖い。確実に平山夢明をこれからスタートさせるとただのトラウマ本にしかならない自信がある。それくらい怖い。ので、私はこの本をオススメはしたくない。人間の悪をごっそり浮き彫りにさせた感じが此処にはある。
だけど、読みやすいのはたしかだ。322頁を14本で割る単純計算をすると1本22.8571429頁になる。約20頁と考えてくれればいい。
でも、逆に考えて欲しい。約20頁の中に恐怖が詰まった物が14本もあるのだ。
面白かったですが、当分読み返そうは思ってない。
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