メルキオールの惨劇

著者:平山夢明
発行者:角川春樹
発行所:株式会社 角川春樹事務所
2000年11月18日第一刷発行

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「死ぬのは眺めても、襲うのは嫌か・・・・・・。理性がそう言っているのか」

「いや。品位(ディグニティー)だ」

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 久しぶりに平山夢明の本を読んだ気がします。「ダイナー」から始まり「独白するユニバーサル横メルカトル」や「ミサイルマン」等の短篇集を読んだ後のコレはどうだろうと正直不安でした。

 一般的な評価では「平山にしてはグロ描写が少ない」「初心者向けだ」という物ばかり。最近のダメージでは「ミサイルマン」の「枷(コード)」で大ダメージを受けたので、多少の攻撃ではダメージを受けないと思っていたので、更に先行きが不安に。
 酷く血なまぐさい物を求めている訳じゃないのですが(あれば楽しんで読みますがね)、ガツンと私の脳天を殴りつけてくれる文章も時には必要なんだと実感しているので、あれば嬉しいなという感じ。

 ストーリーは一人の男(12)から始まり、一人の女と三人の子供でほぼ構成される。

 ”子供”を”子供”と感じていいのか、悪いのか。二つの意味でこの言葉を使えるだろう。

 正直、グロ描写で少し顔を歪ませたのはストーリー内でバニラエッセンスにもならない程度の「伯父は死の数ヶ月前より己が襁褓(むっき)より糞を取り出し貪ることを止めようと指一本ずつを噛み切り、それも叶わぬと目玉を抉り出し父上に放り投げて抗議したという。」と、いう一文だけであった。物語の主として”白痴”の存在が出てくるのだが、きっとその”白痴”の存在が大きすぎるのか、”白痴”の行動自体が空間を歪ませているのかかもしれないが、きっとそれのせいで光らない部分もあるのかもしれないと思うと残念だったりする。(誤解しないで頂きたいが、”白痴”を差別(白痴自体が差別用語だという意見も多いだろうが)するという訳ではなくこれはフィクション上での話である事をお忘れ無く願いたい。)

 結論でいうと、泣いてしまった。平山作品で涙を流すだろうという予想は一切していなかったので、正直この涙は12(トゥエルブ)の涙に近しいものかもしれない。

 終盤より少し前の白痴の中での光と影が屈折する場面(ネタバレになるのでイメージで表現させて頂く)では、視界が完全に12になり、12のままで動かされていく感が強かった。


 最後の頁を思い出すと胸がとても苦しくなるので其れを含めもう一度じっくり読みたい本の一つになった。


メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)